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消せない  作者: ココ
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元婚約者の本音


この学園には生徒たち専用の休憩室がいくつかある。表向きは誰でも使用して良いことになっている。だが、実際は学園の暗黙のルールとして、その休憩室を使用して良いのはお金持ちの生徒が集まるこの学園の中でも、さらにトップクラスの家柄の生徒だけだった。もちろん洸はその休憩室を自由に使用できる側の人間だったため、授業が終わった放課後その休憩室にいた。そこには洸以外の姿もあった。


「洸ー。お前のクラスに転校生来たってほんとー?」

茶髪の男が洸にソファに寝転がりながら洸に話しかけた。


「うるさい。」

洸は一人掛けの椅子に長い足を組み座り本に目をおとしたまま言った。


「機嫌悪いなー。どうしたんだよ。」

男はぶぅと口をとがらせながらソファから起き上がった。


「別に。」


「香菜ちゃーん!洸が冷たいー!傷ついたからなぐさめてー。」

そっけない洸の態度に男は向かいのソファに行儀よく座る少女に泣きながら抱き着こうとした。


「香菜に触んな。きたねぇ。」

すかさず、洸が近くに置いてあった雑誌を男の顔に投げつけた。


バンッ

雑誌は男の顔に勢いよくあたった。


「お、お兄ちゃん・・・。」

香菜という少女は少しとがめるように洸の顔を見た。


「いてて。ひっでーなー、俺泣いちゃうよー。」

男は鼻をおさえている。


「勝手に泣け。」

そんな男に目を向けることなく冷たく洸は言った。


「そ、それよりお兄ちゃん。転校生って本当?」

また二人の争いが始まりそうだったので香菜は慌てて兄に話題をふった。


「そうそうー、それが聞きたかったんだよ俺も。」

思い出した、とばかりに香菜の話題に乗っかった。


「まぁ、転校生っつーか留学に行ってたやつが戻ってきただけだよ。」


「そうだったんですか。」


「え、誰々??女?」


「・・・峰結衣子。」

ぼそりと小さな声だったが香菜も男も聞き取れたようで二人とも驚いていた、


「・・・え?」


「うそ!まじか!峰結衣子ってお前が言ってた子だろ?元婚約者で遊ばれてたっていう。」

男は結衣子が留学に行ってから、この学園に来たため実際には結衣子と会ったことはないが、話だけは洸から聞いたことがあったのだ。


「うるせぇ。」

眉を寄せて不機嫌そうに言った。


「お前がそう俺に言ったんだろー?・・・で?」


「は?」


「可愛いわけ?その峰結衣子って子。」

笑顔で興味津々な男。


「さあな。」


「なんだよ、教えてくれたっていいだろー。なあ、香菜ちゃんから見て峰結衣子って可愛い?」

香菜の方を振り向いて聞いたが香菜から反応はない。


「・・・。」

少し下を向いて黙っている。男の声が届いていないようだ。


「香菜ちゃん?」

返答のない香菜の顔をのぞきこんだ。


「え?あ・・・ごめんなさい。」

ハッとしたように香菜は顔をあげた。


「顔色悪くない?大丈夫?」

心配そうに男は言った。


「はい・・・。」


「はぁ。そんなに気になるなら自分で見てこい。」

ため息をつき、わずらわしそうに洸は言った。


「はいはい、わかりましたよー。もう自分で見てきますよー。」

結局、気になる男はふてくされながらも峰結衣子を見るため部屋から出て行った。


ばたん

二人きりになると洸は静かに香菜に声をかけた。

「・・・香菜。」


ビクッ

「お、お兄ちゃん。」

声をかけられた香菜は怯えるように肩を揺らした。


「本当に顔色が悪いぞ。今日はもう帰った方が良い。」

真っ青な顔をしている香菜に洸はそう言った。


「・・・うん。そうするね。」

香菜は素直に洸の言うことを聞いた。


「ああ。」


「ねぇ、お兄ちゃん。」


「なんだ?」


「結衣子さんとはもう・・・なにかお話した?」

香菜はうつむいたまま洸に言った。


「・・・少しな。」


「何をお話ししたの?」


「大したことじゃないさ。」


「・・・そう。」


「ただ・・・」


「・・・?」


「ただ、やっぱり俺は騙されていたんだってわかったよ。」

洸は諦めたような笑顔を浮かべた。


「・・・あの人のこと、まだ信じてたの?」


「信じてはいなかった。だが、もしかしたらとも思っていた。何か事情があったんじゃないか、脅されたりしていて彼女の意思ではなかったんじゃないか・・・って、何度か考えたことはあった。・・・いや、正直ずっとそんなことばかり考えていた。」

乾いた笑いをこぼしつつ香菜に本心を打ち明けた。


「・・・。」

そんな兄を香菜は何も言わず見つめた。


「でも、そんなの俺の願望だったんだ。彼女は弁解も謝罪もしなかった。開き直ってさえいるような彼女の態度を見て、ようやく現実を受け入れられたよ。俺が好きだった彼女はいない。最初からいなかったんだ。」


「お兄ちゃん、あのね・・・」

香菜はようやく口を開いたが、兄には気付かなかったらしくさえぎられてしまった。


「体調が悪いのに長々と話して悪かった。さあ、もう行こう。」


「う、うん。」

香菜は曖昧に頷いた。


「寮まで送る。ほら、行くぞ。」

そんなに香菜に洸は手を差し出した。









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