元婚約者の怒り
一条について行った先は一つの空き教室だった。
一条はゆっくりと振り返り言った。
「・・・なぜ戻ってきた?」
「なぜ?もともとその予定だったじゃない?留学は一年間、それが終われば学園に戻ってくるって。」
結衣子は笑顔でそう答えた。
「そうじゃない。俺はあのとき君に言ったはずだ。」
そのとき授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。
「あら、始まってしまったわ。初日からサボりだなんて印象が悪くなってしまうわ。」
「言っただろう。」
一条は結衣子の言葉を無視しそう続けた。
「さっきからうるさいわね。あなたの言葉なんていちいち覚えてないわ。」
結衣子がわずらわしそうに言う。
「俺の前に二度と顔を見せるなと言っただろう!!」
「大きい声を出さないでくれるかしら?耳が痛いわ。昔はもっと優しくしてくれたじゃない。ずいぶん変わってしまったのね、あなた。」
結衣子は顏をしかめた。
「君だって変わっただろう。昔は・・・いや、君は変わっていないのか。俺が騙されていただけだ。
君は俺を裏切った。裏切り続けていたんだ。」
一条は苦痛に耐えるように手を握り締めた。
「・・・。」
「さぞ、おかしかっただろうな。君がほかの男と関係を持っていたのも知らず、君に笑いかける俺を・・・笑っていたんだろうな。ずっと、腹の中で馬鹿にしていたんだろう!!」
「・・・。」
「なんとか言ったらどうだ!」
結衣子は怒鳴る彼にゆっくりと近づき彼の手をとった。
「そんなに固く手を握り締めては血がでてしまうわよ。」
「さわるなっ!!」
バシッ
一条は結衣子の手を払いのける。
「もう痛いわね。乱暴なんだから。そんなんじゃモテないわよ。」
払われた手をさすりながら口をとがらせて文句を言った。
「黙れ!それに女になどモテたくもない。君のせいで女嫌いになったからな。」
顔を歪め吐き出すように言った。
「あら。それはかわいそうね。なら・・・私が直してさしあげましょうか?女嫌い。」
結衣子は一条の端正な顔に近づき妖艶な笑顔でささやいた。
ドンッ
一条は結衣子を突き飛ばした。
「・・・やっぱり君の本性はそれなんだな。もういい。・・・もういい。」
そうつぶやき一条は静かに結衣子を置いて出て行った。
残された結衣子はそれでもまだ笑みを浮かべたままだった.