Merry Christmas☆~ゆうやけ荘の場合~
「よし、それじゃあお待たせしました、クリスマスパーティ開始だよ!」
「れっつ・ぱーちぃ!」
「パーチィ!」
まつげさんの音頭に合わせて佐々木さんと花笑ちゃんが飛び跳ねた。
今宵無礼講、ということで木鈴さんと最上さんがぞくぞくと料理を運んできて、それを片っ端から前島さん佐々木さん花笑ちゃんが襲い掛かっていく。
壮絶。
「うわあ……本当に豪華ですね」
「まあね。何だか知らないけど水戸ちゃんがもの凄く張り切っててね。見たことないくらい上機嫌だったけど、ユーヤくん何したの?」
「え、僕ですか?」
「まあ、他に考えられないし」
うーん、と考えてみる。水戸さんが上機嫌か……思い当たることと言えば、
「クリスマスプレゼント、ですかね」
「え、プレゼントあげたの? もしかしてあのペンダント?」
「はい、それです」
「成程ねえ……」
なぜだかわからないけどにやにやと笑うまつげさん。
「ユーヤくん、なかなかいいセンスしてるね」
「え、そうですか? 変なの選ばないように気を付けたので、変じゃなければよかったのですが……」
「いやいや、なかなかいい趣味してるよ。水戸ちゃんも機嫌がいいわけだ」
水戸さんの上機嫌のお陰でこれほど豪勢なフルコースになったのなら、まあ悪い気はしないかな。
「よぅし酒だ! 酒持ってこい!」
「お酒! お酒!」
「こらちょっと、花笑ちゃんはお酒ダメだからね」
「わっちはよかろ。持ってきぃ」
「飲み過ぎないでよ……御神酒そんなにあるわけじゃないんだから。今度こそ甘酒だってないんだよ?」
「いいんじゃ! わっちも飲む! 飲むのじゃ!」
「むう……残念です。ならば仕方がありません。仕方がないので花笑ちゃんはこの、ロカ・コーラで我慢します」
「そうだね……あ、いやストップ! 花笑ちゃん炭酸でも酔うんだよね!? あ!!」
「遅かったみたいですねー」
「ふあぁふぁふぁふぁっふぁ!!」
「あーもう……」
「酒が足らんぞ! もっと持ってこい!」
「あ、ちょっと前島さん、最初っから飛ばし過ぎですよ。いつの間にか何本空けてるんですか」
「いいんだって。こういう日しかがばがば飲めないんだから……ほらユーヤ、暇なら酌しろ」
「え、あれ、木鈴さんと最上さんは? さっきまでここで一緒に呑んでましたよね」
「ん、ああ、あのふたりなら後ろで潰れてるぞ」
「ええ!? もう!? 前島さん、手加減というものを……あーあ、本当だ」
「早過ぎですねー」
「弱過ぎなんだよ」
「前島さんが飲ませ過ぎるからでしょう……あー、御免ユーヤくん、このふたり運ぶの手伝ってくれないかな」
「え、僕ですか?」
「男手はもうユーヤくんしか残ってないですからねー」
「木鈴さんも最上さんも気の毒ですね……」
何気にこのふたり、今においても台詞がひとつも出ていない……ん、あれ、何の話だろう、天の声?
「そういえばまつげさんって、結構お酒強いですよね」
「え、そうかな……まあそうかな。うち、両親ザルだし……いやでも、強いって程じゃないよ。普通普通」
「ま、私には負けるけどな!」
「前島さんは強過ぎなんです……」
「ユーヤくんは、まあまだ飲んじゃダメなわけだけど、御両親はどうなの? 強い方?」
「え、うちの親ですか……そうですね。母はもの凄く強いですね。でも父はどうしようもなく弱いです」
「あー、じゃあ飲んでみないとわかんないね」
「お、よし、じゃあ飲め飲め」
「いやいや、ダメですからね」
「実は私も強いんですよー」
「加賀さんは、お酒飲んでるともの凄く背徳的な絵になりますね……」
「ちなみに日本酒が好きですねー」
「結構酒豪だよ」
「ますますぞくぞくしますね」
「あっははははは!」
「ひっははははは!」
「花笑ちゃんは炭酸で酔ってるしなあ……佐々木さんは、とりあえず笑い上戸?」
「あ、例によって水戸ちゃんが全然食べてないね。呼んで来よう。――おーい、水戸ちゃーん」
「水戸ちゃんに飲ませたらどうなるんだろ」
「興味ありますねー」
「いや、水戸さんも未成年ですからね。駄目ですからね」
「わぁってるって」
「ほら、私が代わるからさ。水戸ちゃんも食べなって」
「あ、席はユーヤの隣な」
「ですねーユーヤくんの隣りですねー」
「え、あ、その、はい、すみません……」
「あ、水戸さん。お料理美味しくいただいてます」
「ほ、本当ですか!? ――あ、有り難うございます……」
「おお、水戸ちゃん真っ赤ですねー」
「いやー若いねーひゅーひゅー」
「ふたりとも、水戸さんますます赤くなってますよ……」
「そういえばユーヤくん、聞きましたよー、水戸さんにプレゼントしたんですってー。いやーいいですねー若いですねー粋ですねー」
「……いやいや、加賀さんだってひとつしか違わないじゃないですか」
「ひとつ違えば全然違いますよー一年あれば世界だって救えちまいますよー」
「それはさすがに無理でしょう」
「にしてもペンダントか。意外といいセンスしてるよなあ、お前」
「それ、まつげさんにも言われましたけど、そうですかね」
「おうよ。水戸ちゃんによく似合ってる」
「それはそれは、幸いです」
「…………」
「おー、水戸ちゃん照れ照れですねー」
「真っ赤だな」
「若いですねー」
「青春だな」
「…………!」
「わ、水戸さんが顔を両手で覆って動かなくなりましたよ」
おお、耳まで真っ赤。
「よし、さあできた。みんなお待ちかね、クリスマスケーキだよー」
「っしゃ来た来た来たァ!!」
「食うぞ! 食うぞ!! わっちが一番でかいのを!!」
「いや! 一番大きいのは花笑ちゃんの獲物ですっ!」
「酒に合うケーキなんだろうなァ!!」
「前島さんたち、もう結構食べてますよね……料理半分くらい食べてたの前島さんたちですよね」
「別腹ですねー」
「おお、加賀さんもノリノリだ」
「ま、木鈴くんと最上くんの分は別に取り分けしておいて……と」
「まつげ、いいんだってそんなの。いない奴に気ぃ使ってどうする。全部食っちまおうぜ」
「いや、酔い潰したの前島さんだし……」
「あ、ユーヤくんはまずこっちね」
「え、これは?」
「うん……極甘党のユーヤくん用の、水戸ちゃん特製ケーキ」
「え、本当ですか!?」
「あ、はい……その、お口に合えばいいんですけど……」
「まあ、食べて御覧よ」
「はい。どれどれ……」
「…………」
「…………」
「…………おお、おお! 凄い! 美味しい! 美味しいですよこれ!!」
「よ、よかった……」
「そんなに美味いのか。どれ」
「あ、ちょっと前島さん、ダメですよ」
「……ぬぉあぐぁ、何だコレ! 甘! 甘過ぎるぞコレ!!」
「まあ、法外な量の砂糖投入してたからねえ」
「甘さで身悶えてる人は初めて見ましたねー」
「砂糖が飽和するくらい入ってるからねえ……砂糖以外にも、糖分のフルコース。でもよかったね水戸ちゃん。ユーヤくんも気に入ったみたいだよ」
「…………」
「言葉もないみたいですねー」
「あー……舌が痺れる。こんなに甘いものをよく食べられるなユーヤは……にしても水戸ちゃん、やるじゃないか」
「え、やるって、何を」
「ペンダントだよペンダント。クリスマスに乗じてまんまとプレゼントかっさらいやがってコンチクショウ、なんだ隅におけないなあ水戸ちゃんも!」
「そ、そんなんじゃ! ……ないです……」
「んで? 水戸ちゃんはユーヤになにあげたんだ?」
「そういえば水戸ちゃん、この間から何か編み物してたよね。あれって誰かに渡すやつだったの?」
「あ、ちょ、まつげさん!」
「へー」
「へー」
「あう」
「やるっじゃん。手編みかよ。ひゅーひゅー」
「これで水戸ちゃんも大きく一歩前進ですねー」
「そのまままっすぐ行け! どんどん行け!」
「アピールアピール!」
「いや、その、はわわわわ」
「ふたりとも、何をそんなにはしゃいでんの……?」
「あー?」
「あー」
「まつげって……」
「まつげさんって……」
「「ふう」」
「いやだから、なんなのそれ」
「あー、でも、思えばまつげさんだけじゃなく、ユーヤくんも大概ですよねー……」
「ああ、確かに」
「ねえふたりとも。なんの話なのってば」
「――ふう、御馳走様でした。有り難うございました、水戸さん」
「い、いえいえいえいえ! そ、その、なんでしたらまた……」
「さてさて皆さん。宴もたけなわで御座いますが」
「ひゅーひゅーまつげー一発芸かー? 待ってました!」
「やりませんよそんなこと。前島さん酔いすぎです」
「うぇえ、キモチワルイ……」
「ちと、呑み過ぎたかの……」
「ああもう、花笑ちゃんも佐々木さんも、それただのみずっぱらですよ」
「収拾つかなくなる前に、ここでいったん纏めておきましょう」
「纏めるって?」
「そろそろ深夜ですしー、一度パーティを締めておこうってことですねー」
「ああ、成程」
「はい、というわけで。音頭は私がとりますよ。それが終わったら、まだ続けたい人は続けて。眠い人は部屋に戻ってもいいからね」
「料理はもう出ないのか?」
「あ、なんでしたら、私まだ何か作ります。材料もいくらかありましたし」
「甘やかすのもいいけど水戸さん、軽いものにしておいてね……」
「あ、はい」
「んじゃまあ、そういうわけで。皆さんいいですかー。いきますよ。せーの、」
Merry Christmas♪