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旅立ちの決意

小さな名も無き村にも、朝は等しく来る。



カーテンから差し込む朝日に目をしばつかせ、リアは起き上がった。



「ふぅあ〜…

…ふふ、

今日は一段と良い朝ね…」




肩より少し長いくらいのブロンドの髪が、彼女が動く度にキラキラと輝く。

彼女はベッドから降り、カーテンを開け、そして窓を開けた。


朝特有のひんやりとした心地よい風が、肌を撫でる。




「さて、下に下りようかな…

……ん?」




リアがふと目線を下げると、窓のサッシに百合が置いてあるのを見つけた。




「綺麗…

一体誰が…?百合なんてここら辺に咲いてたかな…

…まあ、この村の皆の中にいるのに違いないわね。

後で聞いてみよう。

朝からなんて素敵なお祝いなの?」





彼女は上機嫌で階段をかけ降りた。

お祝い、とは…そう実は今日、彼女は晴れて16歳となり、成人を迎える日なのである。

彼女はとてもこの日を待ち望んでいた。






みんながどんなパーティーをしてくれるのか楽しみね!





「おはよう!

アシュヴィル!!」



リアは台所で朝食の準備をしている彼女に元気良く挨拶をした。




「…!

リア…。

…おはようございます」




リアが産まれたときから世話をしてくれているアシュヴィルは、少し思い詰めたようだった。




「…?

どうしたの?いつになく元気ないじゃない。

何かあった?」




「!

いえ、何ともないですよ」




「…。

本当?」

「本当です。

それよりリア、今日は剣の稽古と政治学の仕上げでは?

早く食べて支度なさい」




アシュヴィルはそう微笑むと、卓上になんとも美味しそうな朝食を出してくれた。




「─…はーい。

いただきます!」








━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「おはよう!

キリク!!」




「おう。リア」




彼女の挨拶をこう淡白に返してきたのは、幼なじみの少年キリクである。

二人は小さい頃からともに剣を習ってきた。




「おはよう、リアちゃん」


「おはよう〜」



他の者たちも彼女に挨拶をする。



「おはよう!みんな!」




すると、剣の師ベクタが現れた。



「みなさん、おはよう。

今日を以て稽古を終いとしますから、最後まで気を抜かず取り組みましょう。

それに今夜はリアさんの誕生パーティーもあるので、ね」




彼はニコリと微笑んだ。


つられてリアもはにかむ。




「今日だっけ、誕生日」



「そうよ!キリク!

私はちゃんとキリクの誕生日覚えていたんだから私のも覚えておいてよ!」



「そうか…」



「…もう、淡白なんだから!」




「それではみなさん…。

構えぇーーーーーーーー!!」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


空が山際を暗く染め始めた頃、高身長で尖った耳をもつ、所謂エルフという種族であるアシュヴィルは、彼女の為のとびっきりのディナーを準備していた。





とうとう…来てしまったか…

この日が…










「ただいまー!!」




「おかえりなさい。リア。

今日はどうでしたか?」




「もーだめ!

最後の最後まで私キリクに勝てなかったわ!

あ〜悔しい…!」




「…それは頼もしいことです」



「それにキリク私の誕生日忘れていたんだから!

…あ、そう言えば朝ね、一番乗りに素敵なお祝いをしてくれた人がいるの!」




「誰です?」




「誰かはわからないけど、窓のところに百合の花が置いてあったの。

素敵じゃないかしら?」





「……………そうですね…!」





百合…





「…ふふ、アシュヴィル、とても良い香りがするわ」





「ああ…、まったく、あなたはせっかちですね。

しかしそろそろ村の皆が訪れる頃、机を外に出して料理を出しましょう」




「わーい!」










夜空に点々と光が灯り始め、村人たちはリアの家前に集まった。



みなリアの誕生を讃え、踊り、料理を食べ、プレゼントを贈り、騒いだ。





リアは自分の誕生日というよりも、彼らのはしゃぐ姿が大好きだった。







ふふ…、みんな楽しそう!







「リア、こちらへ」





パーティーの終盤、アシュヴィルが家に入るよう彼女を呼んだ。






「…?何?」






家に入ると、いつの間にか床には魔方陣らしきものが描かれていた。





「え、これ何?」





「私が唯一できる魔法です。

エルフ族は成人になるときこの儀式を行います」





「ま、魔法!?

あなたそんなもの使えたの…!?

…というより、エルフの成人のときって、私は耳も尖ってないし、ただの人間よ?」





「はい。

あなたは人間です。

─ただし半分。」





「!?」





「あなたにはエルフ族の血も流れています。

人間とエルフの間の子は、この成人の儀を終えると、特別な能力を一つ手にすると言われています」





「え…?なぜ…?

私が人間とエルフの間の子…!?」




リアは突然のことであまり収拾がつかなかった。





「…はい。

16年間黙っていてすみませんでした。

しかしこの事はあなたが成人を迎えた時に伝えようと心に決めていたのです。

どうかこれから話すことを、お気を確かに、しかと聞いておいてください。

─祖国の歩む未来を定めるため…」





「…?」




今までお祝いムードだったのが、一気にはりつめる。





「単刀直入に言います。

あなたは、リア・グスタルフ…16年前に滅ぼされたエルマル王国最後の王族にあらせられるのです」




「!!…………はい…!?」




「…話を進めます。

─あなたの母君、シルビア様は優美で慈悲深く、とても聡明なお方でした。第一に民のことを考え、政治は安定し、平和な日々が続いていたのです。

─しかし、それが16年前に途絶えてしまったのです…」





「…?なぜ…」





「ある裏切り者の手引きにより、独裁的国家ディメアに攻めいれられてしまい…

シルビア様もそのときに…」





アシュヴィルは何か辛い事を思い出したように顔をしかめた。



「そして占領された祖国にはまだ、逃げ遅れた国民が取り残されているのです…」





「……………………………………………冗談…でしょ…?」



「…!」



「私を驚かせようとしてるだけよね…?

もしこれが本当なら余りにも急じゃない。

そんな大事なこと、昔から聞かせておけばいいのに」




「─私はあなたをそのようには育てたくなかった。

憎しみを教え続ければ、憎しみしか知らない子になる。

…あなたには、シルビア様のように草木やいきものを愛で、強くたくましい子に育って欲しかったのです」




「…この事が本当だとして、知っているのはあなたと私だけ?」





「…いえ…。

…─村人全員です。

彼らは我々と同様エルマルの民で、ともにこの地に逃げ、村を築き上げてきました…」



「!!

…そんな…、…キリクも?」



「はい」



「ベクタ先生や、エマイル、シュエ、カナサ、トウウィンも…!?」



「はい。…全員です」




「そんな…」




「この話は嘘でも冗談でもありません。

全て事実なのです。

…辛い選択となるのは承知の上ですが、あなたには選ぶ権利がある。

リア、今起兵を宣言され祖国の奪還に向かうか、このまま今まで通りこの村で過ごすか、ご決断を」




「…わ…わかんないわよ…!

あなたが決めればいいじゃない!」




「お願いいたします。

あなたは…我々エルマルの民の王だ」





「……っ。

…いや…、いやよ!

わかんないって言ってるじゃない!!」




「リア!」




リアは感情のまま家を飛び出した。








走って走って


パーティーの明かりも届かなくなるまで走って



目の前に押し迫る現実から逃げようとした。








起兵すれば村のみんなはこの地を捨て、命を懸けなければならない。

このまま村にいれば、祖国に取り残された民はどうなるの…?

どちらの選択も誰かが死んでしまうかもしれないじゃない




そんなの嫌よ!







リアは小さい頃よく遊んでいた草原にうずくまっていた。





「………」





「…リア」





「…………」




「…おい」




「…………」




「返事くらいしろ…!」




「あなたも…最初からわかってたんでしょ…キリク」




「!……ああ。

物心ついたときから俺はお前を守るために産まれてきたと言われてきた」




「っ…そんなの余計なお世話よ!

……ひどい…、ずっとあなたたちはそういう目で私を見ていたのね…!」




「違う」


「何が違うっていうの!?」




「リア、こっち向け!」




キリクはうずくまっていたリアを力ずくで振り向かせた。




「確かに俺は、親からお前の盾となるように言われ育てられてきた。

でも俺はお前が王女だからといって守るんじゃない。

─リアだから守るんだ。

俺は…お前だから守りたいんだよ…!

だから、ともに祖国を救いに行こう…リア…」




「………」




夜風が二人の間を吹き抜ける。



「…でも…私…誰かが死ぬのなんて見たくない…!

…恐いのよ…!」




「…祖国の夜明けも知らずに死ぬのはもっと嫌だな、俺は。

村のみんなもきっとそう思ってる。

中には家族と離ればなれになってるやつもいるんだ。

ずっと俺はそんな人達の姿を見てきた。

…大丈夫、全員覚悟はとうの昔にできてるさ。

心配なんかしなくていい。

お前は俺が絶対に守るから」




辺りは真っ暗で、互いの顔もはっきりとはわからない。


でも肩に置かれた手に込められた力で、キリクの覚悟が伝わってきたような気がした。




「…じゃあ一つ約束して」




「おう」





「絶対に、死なないで」




「わかった。

死なねぇ。約束する」




「約束よ?」



「ああ、約束だ」





キリクの手をとるとなんだか全てが上手くいくような気がして…少し安心した。




「さあ、戻ろう」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










「──────」





成人の儀が終わり、リアは正式に大人てして迎えられた。

家の外へ出ると、村人全てが待ち構えていた。





「みんな…、いえ、エルマルの民よ、よくぞ16年という長い時を待ってくれました。

私も闘う覚悟ができ、いよいよ決戦のときが来たのです。

私とともに祖国を救う覚悟があるものは、応えよ!」




「「オオォーー!!!!」」




見ると、村人全員が拳を突き上げてリアに応えていた。



「…ありがとう…!

じゃあ…

─帰りましょう、エルマルへ!!」


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