「お前ってさ、顔面ダサいよな」いきなりそんなことを言われてしまったのですが……? ~私は私で幸せになるだけです~
「お前ってさ、顔面ダサいよな」
婚約者である彼ルーティオは二人でお茶をしていた時に急にそんなことを言ってきた。
「え……っと、それはどういう……」
「そのままの意味だよ。顔面ダサい。それが言いたいこと」
「さすがに失礼じゃないですか」
「失礼じゃない。だって事実じゃないか。不細工だとは言わないけどさ、お前、顔面パッとしなさすぎだろ」
しかもさらに失礼な発言を重ねてくる。
――そして、その果てで。
「てことで、婚約は破棄するから」
彼は私たちの関係を壊す言葉をはっきりと発した。
「婚約、破棄……?」
「そうだよ。そのままの意味。つまり、俺たちの関係はここで終わりにする、ってこと」
「本気で言っているのですか?」
「もちろん」
「……顔面がダサいことが理由ですか?」
「よく分かってるな、そうだ、その通りだ。パッとしない顔面のやつと生涯を共にするとか絶対に無理なんだよ」
こうして、私たちの関係は、突如終わりを迎えることとなってしまったのだった。
それにしても、顔面がダサい、って……。
私の顔が嫌いなのならそもそも婚約しなけば良かったのではないか、と思ったけれど、今ここでそんなことを言っても何も変わらないと分かっていたので口からは出さないでおいた。
話し合いができない人というのもこの世には存在するものだから。
◆
あれから少しして、ルーティオは、お見合いで美人な女性と結ばれた。
だがその女性の本性は極めて凶暴なものだったようで。
彼は今、自宅の地下にある監禁され、奴隷のような扱いを受けているそうである。
今や彼に人権はなく。
少しでも女性に反抗すれば物理的に痛い目に遭わされる、といったような、どうしようもない状況におかれているのだとか。
ルーティオが生き延びる道は一つしかない。
それは、女性に従い続けること。
女性に言われた通りに生きる。
女性の命令のままに暮らす。
女性が機嫌を損ねないよう頭を下げ続ける。
そうやって生きていくしか道ないのだ、彼には。
どんなに理不尽なことを言われても、どんなに理不尽な目に遭わされても、黙って頭を下げ従う――そうすることでしか、彼は彼として生きられない――否、たとえそうして徹底的に従ったとしても、皆が思うような普通の生活は手に入れられない。
顔で選んだ相手に人生を潰される。
……彼は今どんな思いで生きているのだろう。
だが、可哀想ではない。なぜならそれもまた彼の人生だからだ。彼の選択が彼をそこへ連れて行った、それだけのこと。彼が求めるもの、彼が選ぶもの、その先にあったのが現在の状態ということで。現状が良いものであろうが悪いものであろうが同じこと。すべて彼が招き入れた運命だ。
◆
「ママ! お腹空いた!」
「はいはい、もうすぐできるから」
「まだぁー?」
「だから言ったでしょ、もうすぐできる、って。ちょっとだけ待って。できたらすぐに言うから」
あれから数年、私は今、一児の母として忙しくも楽しく暮らしている。
「ええー、でぇもぉぉー」
「いいから待っていて」
「……はぁーい、仕方ないから待つよぉ」
夫はそこそこ裕福な人だ。
それゆえ彼にはいろんな意味で支えてもらっている。
金銭的にも。
励まし的な意味でも。
ありとあらゆる面から、彼には温かく関わってもらえている。
彼には感謝しかない。
「できたわよ!」
「うわーっと、よっしゃあああああああ!!」
「ちょっとちょっと落ち着きなさいよ」
「お腹空いてたから早く食べたすぎるううぅぅぅぅぅ!!」
「コラ! 騒がないの!」
「……うん、ごめんなさい」
「じゃ、どうぞ。ゆっくり食べるのよ。早食いのしすぎは健康に悪いから」
「はぁーい!」
ちなみにルーティオはというと、あれからも妻である女性に虐待に近いような行為を繰り返されていたらしく、やがて体調を崩し命を落としてしまったそうだ。
だが、そんなことはもう、私には何の関係もないことだ。
私たちは別々の道を歩むことを選んだ。
その果てで何が起ころうとも無関係。
幸せになったとしても、不幸せになったとしても、お互いには何の関わりもないこと。
◆終わり◆




