依頼2-2
「はァン」
と、店じまいを終えたばあさんが、背後でため息にも似た声を漏らした。
駄菓子屋の二階。
オレが寝起きしている八畳間。通称ゴミ溜め。
「それが仕事ねェ……」
「なァに言ってやがる。ばあさんだって似たようなもンじゃねェか。売り物のコマ回したりゴム飛行機飛ばしてるだろ」
「ありゃァ~アンタ、『デモンストレート』ってヤツだよ」
英語を使って満足気な顔。
オレはあえて訂正しない。
相変わらず汚いねェ、と言いながら、ばあさんがオレの横に腰を下ろした。
「どうして自分でやらないンだい?」
ばあさんが仕事について聞いてきた。
「さあな……」
本当にオレにもわからない。面倒くさいのか、それとも他に理由があるのか……。
「『タクト』って誰だい?」
「依頼人がキャラにつけた名前だよ。アノ人の名前は樋田荘司だからきっと思い入れの……」
「お子さんかねェ?」
口を挟んできたばあさんの意見を、オレはなるほど、と聞いた。
樋田は憔悴していて幾分老けて見えたが、オレよりひと回りぐらい上の年齢だろう。だとすれば子供がいても当然だし、キャラに子供の名前をつけても不思議ではない。
「でも、私だったら子供の名前はつけないわねェ」
「なんでだよ。仮想世界とはいえ先頭に立って活躍するンだぜ。より熱が入るってもンだろ」
「それはアンタ、男親の考えだわね。母親の立場で言わしてもらえば、たとえゲームでも子供だと思っているものが死ぬのは嫌だわね」
「へェ~、そんなもンかねェ」
「そんなもんよ」
オレが感心していると、ばあさんはそろそろ煮えたかねェ、と立ち上がった。どうやら料理ができあがるまでの暇つぶしに来たらしい。
「でも――旦那の名前だったらつけられるわね」
ばあさんはオレの背中を叩いて、笑いながらゴミ溜めを後にした。