依頼2-1
半年前――。
西日が射す駄菓子屋にひどく憔悴した男がやってきた。
男は肩から大きめのスポーツバッグを提げていた。
ばあさんは訝しげに男をみた。
オレは怪しければ怪しいほど客である可能性があったから、丁寧にいらっしゃいませ、と迎え入れた。
「『なんでも屋』はここでいいのか?」
男はその様子とは違い横柄に尋ねてきた。落ち窪んだ目に異様な光がある。
オレは内心腹を立てたが、わかりにくい場所ですみません、と言って二階の八畳間に通した。
男はオレが座布団を勧める前に、自分で手に取って胡坐をかいた。
「なんでもやってくれるンだな」
「法に抵触しない範囲でならお手伝いします」
オレは決まり文句を言って、押入れからレターケースを取り出した。
男はスポーツバッグを開け、なにかを取り出そうとしている。
「お急ぎですか?」
男は答えず、取り出したものを食卓にも事務机にもなる万能座卓の上に並べた。
それは――ゲーム機だった。
人気のRPGの最新作ソフトが脇にある。
オレはそれらを目の端に捉えながら依頼書とペンを差し出した。
男は乱暴にペンを走らせながら言った。
「レベル上げをしてくれ!」
オレは呆気にとられて返事ができなかった。
「やったことないのか?」
「いえ……」
オレはゲームをそれほど好きではないが、さすがにこの人気シリーズだけはやったことがあった。ただし、途中で飽きてクリアーはしてないが……。
「ストーリーは進めなくていいからガンガンレベル上げをしてくれ。装備もその地点までの最強のものに整えてくれ。ただしボスキャラは倒さないでくれ」
男は強い口調で言い、依頼書をオレに差し出す。
オレは依頼書に目を通し名前を確認する。
樋田荘司
「樋田さん、主人公の名前はどうすれば……」
「その必要はない。もう入力してある。明日も同じくらいの時間に寄るから、できるだけレベルを上げといてくれ。頼む!」
オレは男の迫力に圧倒され、この訳のわからない依頼を引き受けることになった。