依頼1-6
「まッ、ネズミみたいなもんよね」
沙緒は薄く笑い冷蔵庫を開ける。
テーブルにタマゴとタコさんウインナー。
「人がいなくなるとこうやって食べ物漁るンだから」
オレはなるほど、と笑う。
「やっぱりそう思ったンだ……」
オレは違うよ、と否定する。
「留守番を引き受けるとき、お父さんが妙な注文をつけたンだよ。『できるだけ静かにしてくれ』ってね。それがネズミを誘い出すことだったとわかったンでね。」
「それで私がのこのこ現れたのがおかしいわけね」
沙緒は少し拗ねて流し台の下からフライパンを取り出した。
「青波さんは食べてきた?」
「エサを用意してくれる人がいるンでね」
「そんなこと言っちァ、奥さんに失礼よ」
オレはそれも間違っている、と言って、オレの現況を話した。
「青波さんも変わってるわねェ」
沙緒はこれが大好きな大臣もいるのよ、とタコさんウインナーを口に放り込んだ。
オレにはこの明るい彼女がひきこもっているようにはとても見えなかった。
ただ、そこに立ち入る気はなかった。
父親の城村にしたってそこまでは期待していないだろう。沙緒の様子を少しでも知りたくてオレに依頼したに違いない。
オレは見たままの沙緒を伝えればいい――。
「それにしてもパパはどうやって青波さんを知ったのかしら。駄菓子屋なんて気にも留めないはずなのに……」
沙緒の疑問に対してオレは心当たりがあった。
なぜならそのことでオレに対する仕事依頼がわずかながら増えたからだ。
「三ヶ月くらい前に新聞に載ったンだよ。それ以前に引き受けた仕事の依頼者が投稿してね」
沙緒はオレの話に俄然興味をもったようだった。話して、話してとオレを急かす。
本来、仕事内容を他言するのは憚れるが、依頼者本人が公表していることだし、とオレは五時までの退屈凌ぎに沙緒に語ってやった。




