依頼1-5
多分、彼女は驚いたのだろう。
オレの姿を見た彼女は目を見開いたまま硬直していた。
「恐がらなくていい」
オレは両手を挙げたまま彼女の様子を窺う。頼むから騒がないでくれ。
「声を上げる前にまず、話を聞いてくれ。わかったら首を縦に振ってくれ」
オレの問いかけに彼女は小さくうなづく。オレは彼女との距離を詰めず、挙げていた手を下ろした。
「オレは『なんでも屋』の青波悠斗。城村さんの依頼で留守番を引き受けてこの家にいる。不審に思うなら城村さんに確認してみてくれ」
オレの言葉を聞くと彼女に表情が戻った。そして、コップの中身を一気に飲み干した。
「パパは私がいること話さなかった?」
「オレを信用したのか?」
「心当たりがあるからね……」
彼女はそう言って体勢を変えた。イスの上で体操ずわりになる。
「なにか飲み物もらっていいかい?」
オレはキッチンへ足を進めた。冷蔵庫を指差す彼女に警戒の色はない。
流し台に伏せてあるコップを手にして冷蔵庫を開け、ウーロン茶をみつけて注ぐ。オレもなかなか図々しい。
「名前は?」
コップを持って彼女の前にすわる。
「沙緒……」
沙緒は気だるそうに答えた。
「で、心当たりってのは?」
「青波さん……だったけ。パパが私のこと話さなかったのはそれなりの思惑があってのことだと想像つくでしょ」
「なんとなくは……」
ただ、その思惑がなんなのかはさっぱりわからない。
沙緒はカラダを前後に揺らしながら口を開く。
「パパはきっと、アナタに私を会わせたかったンだと思う。カン違いしないでね。そういうのではなくね……」
それはオレにもわかる。沙緒とは初対面なのだ。彼女にしても恐らくそうだろう。
「私はある問題を抱えてるの。パパはその問題解決にアナタの力を借りたかったンだと思う」
「問題というのは?」
オレは尋ねながら厄介なことを引き受けたな、と後悔する。
「私は世間でいうところの『ひきこもり』なの」




