依頼1-10
「どうして自殺だと……」
沙緒は城村の妻と共に家に上がった二人の刑事の顔を順に見た。
大羽という長身で色素の薄い刑事の話によると、城村英輔は、ここから二十分ほど離れた会社近くの雑居ビルの屋上から転落死したらしい。
「遺書らしきメモが上着のポケットに……」
異様に額の突き出た短髪の魚住という刑事が、ポケットから遺書らしきメモが収められた透明な袋を取り出した。
「見ないほうがいいッ」
袋を受け取ろうとした沙緒と刑事の間に、城村の妻が割って入った。しかし、袋は沙緒の手に渡ってしまった。
沙緒はじッと袋を見つめた。その横で城村の妻は手で顔を覆った。
「私のせいでパパは……」
そう言った沙緒の声は震えていた。想像するに、メモには沙緒のことを気に病んでるような内容が記されているのかもしれない。
城村の妻がなにも言わずに沙緒を抱きしめ頭をなでた。久しぶりの親子のふれあいがこんな形で実現してしまったことが、なんとも痛ましい。
「奥さん、娘さんから話を聞きたいのですが……」
魚住刑事はそう言って、メモの返却を求め、手を差し出した。そして、それを大羽刑事に渡した。
沙緒は母親に付き添われてリビングのソファーに腰を下ろした。キッチンからイスを持ってきた魚住刑事がその正面にすわった。
オレは深く沈んだ表情の沙緒をキッチンから眺めていた。そして、オレの役目は終わった、と考えていた。
帰るか――。
オレがそう思ったとき、オレの前にすッと長身の大羽刑事が立った。
「青波さん……でしたたよね。『なんでも屋』でしたか。おもしろい商売をなさってますね」
大羽は刑事らしからぬ軟らかい口調でオレに語りかけてきた。
「ところで青波さん、これを見てどう思います?」
大羽はそう言って、沙緒が絶句したメモをオレの前に翳した。
オレの見たくないという思いより先に、文字が目に飛び込んできた。
もっと話をするべきだった
すまない
許してくれ