依頼4-6
――私たち夫婦を拒絶するために家をゴミ屋敷に……。
オレは頭の中で綾音の言葉を復唱した。
「母は父が亡くなって塞ぎがちになってました。私はその後、夫と結婚を約束しました。私の結婚を母は喜んでくれるものと信じて疑いませんでした。でも、違ったのです。母はますます自分の殻に閉じこもるようになってしまったのです」
綾音はハンカチで涙を拭って続けた。
「母は婚約者の夫に会うことさえ拒むようになりました。父に次いで、私がいなくなることが耐えられなかったのでしょう。ですが、私には私の人生があります。母も大事ですが、夫と別れることなど考えられませんでした。ですから、母がなんと言おうと結婚の話は進めました」
綾音は大きく息を吐いた。
「結婚式にも母は出席してくれませんでした。夫も夫の両親も病気なンだから、と寛容な態度で接してくれたので私は救われましたが、やはりどこか後ろめたさを感じずにはいられませんでした。しかし、母の病状は悪化するばかりで、ついには折を見て様子を窺いに行っていた私までもを拒絶するようになって、私が訪ねられないように家をあの状態にしてしまったンです。あのゴミの山は私たちの進入を拒むバリケードなンです」
綾音はオレの胸で嗚咽した。
オレは――。
やはり、どうすることもできず、呆然と立ち尽くした。
「すみません……」
綾音は顔を上げ、ハンカチで目頭を押さえた。
「誰かに相談してなんとかなるもンじゃないとはわかってるンです」
綾音はもう一度すみません、と言ってオレから離れた。
「いつかきっと、母の病状がよくなることを信じて待ちます」
綾音は自分に言い聞かせるように言った。
多分、繰り返し繰り返しそう言っているに違いない。
「そうなるといいですね」
綾音はオレの言葉に、ありがとうございます、と頭を下げ、闇の中へ消えていった。
ゴミはいずれ周辺の住民の声によって役場が重い腰を上げ、撤去されるだろう。その時に、タキの綾音に対する負の感情も一緒に消えることをオレは願った。