依頼4-2
「そりゃァ人形のことだよ」
と、ばあさんはみそ汁の入ったお椀を置いて言った。
「アンタは学校で遊び呆けていて知らないかもしれないけど、タキさんたまにだけど買い物に来てたからねェ。いつも人形抱いていて、『ぴーちゃん』って話しかけてたからねェ」
「人形か……」
オレは猫がゴミの山の上で人形を咥えている姿を想像した。
「旦那さんに先立たれて、一人娘も嫁いで寂しかったンじゃないのかねェ。人形を我が子のように愛おしそうに撫でてたのを覚えてるよ」
我が子同然のものが突然なくなったショックはかなりのものだっただろう。オレはタキに少し同情した。ただ、あのゴミの山から探し出すことを考えると、やはり億劫になる。
オレは取り乱していたタキに明日行くから、と約束して、とりあえず引き上げてもらったのだ。
「それにしても、タキさんはなんでゴミを集めだしたンだろうな」
「さあねェ……。近所の人の話だと、ゴミを拾い集める姿をみかけるようになったのは、娘さんが嫁いでかららしいけど、どうしてかねェ……。アンタの方が理解できるンじゃないの?」
ばあさんは天井に視線を移した。その方角の先にはやはりゴミ溜めがある。
「皮肉言う前にたまには肉食わせろよ。なんだよ、この料理ッ!」
オレはテーブルを箸で叩く。テーブルの上にはいつもと変わらない惣菜が並んでいる。
「『なんでも屋』第一号の客が来た記念すべき日だぞ。少しくらいお祝いムード出してもいいだろうに」
「お祝い!? ちゃんちゃらおかしいよ。私にとってお祝いすべき日は、アンタがしっかり自立して、ここをさっさと出てゆく日だよ。そんときャ肉でも鯛でも喜んで送ってやるよ」
ばあさんの啖呵にひと言も言い返せなかった。情けないが、それは当分できそうもない。
オレはそっと箸を持つ手を伸ばして、煮豆をひとつつまんだ。