第1話:「お前ら、生きてるか?」――召喚、そして最悪のステータス
本作品は補助にAIを使用し、執筆してます。文才はありませんが面白楽しく読んで頂きたいと思います
真っ暗だった。
意識の底から浮上する感覚。後頭部に残る鈍い痛みよりも先に、鼻腔をくすぐったのは――
「コンビニのつくね棒」の、あの甘辛いタレの匂いだった。
「……おい。マルモ、カズヤ。生きてるか? 俺のつくね棒、無事か?」
ナツキの、少し肉の乗った低く、そして切実な声が響いた。
ゆっくりと目を開けると、そこは新宿のガード下ではなく、見たこともない巨大な石造りの広間だった。ナツキはどっしりとした身体を揺らし、真っ先に自分のポケットを探る。
「……ナツキ、第一声がそれか。おいは生きとる。ばってん、眼鏡の歪んどるごたん……。こがん場所、佐賀のクリーク(水路)に落ちた時以来の絶望感ばい」
隣で這い上がったのは、恰幅のいい巨漢のマルモだ。ずり落ちた眼鏡を太い指で押し上げながら、慣れ親しんだ佐賀弁を漏らす。その体格はナツキに負けず劣らず「立派」だが、どこか知的な威圧感がある。
「二人とも無事ならいいよ。……ただ、状況は最悪。ドッキリにしちゃ、あそこに並んでるジジイたちのコスプレ、金がかかりすぎてるし、そもそもあいつら本気で拝んできてるよ」
最後に、カズヤがスッと立ち上がった。三人の中では唯一のスリム体型。切れ長の目で周囲を冷ややかに観察し、さらりと毒を吐く。
「ようこそ、異界の勇者様方! 我らグランバルト王国は、貴方様方の降臨を心よりお待ちしておりました!」
響き渡る朗々とした声。
見上げれば、金糸の刺繍を施した豪華な法衣を纏う老神官と、抜身の剣を掲げて整列する銀色の騎士たちが、魔法陣を囲んで跪いている。
天井は気が遠くなるほど高く、ステンドグラスからは見たこともない色彩の光が差し込んでいた。
「勇者……? 何だそれ。カズヤ、これ何のドッキリだ? 隠しカメラはどこだよ」
ナツキが顔を引きつらせ、隣に立つカズヤの肩を叩く。カズヤは無言でスマホを構えていたが、その指は微かに震えていた。
「ドッキリにしては、建築様式の解像度が高すぎる。石材の風化具合、空気中のイオン濃度……ナツキ、これ、新宿じゃない。電波も完全に圏外だ。俺たちの端末が、この世界の物理定数と同期しようとして熱を持ってる」
「冗談じゃなかばい! おいはまだ、庄田国の王子の務めば果たしとらん! 帰せ! 今すぐ佐賀に帰さんね!」
マルモが太い腕を振り回して叫ぶが、老神官は慈悲深い(と自分では思っていそうな)笑みを崩さない。
「混乱されるのも無理はございません。ですが、このグランバルト王国は今、魔王軍の苛烈なる侵攻により絶滅の危機に瀕しているのです。
古の盟約に従い、天の理を超えし力を持つ皆様をお招きした次第……。どうか、この世界を救う希望となっていただきたい!」
老神官の言葉は、まるで芝居じみた熱を帯びていた。だが、ナツキはその「救世主」だの「絶滅」だのという単語を、脳の防衛本能でシャットアウトした。
あまりにも現実離れした要求を突きつけられた時、人間の意識はしばしば、最も身近で、最も切実な欠乏へと逃避する。
「……世界を救え? 無茶言うなよ。俺たちはただのサラリーマンと、自称王子と、エンジニアだぜ。それよりおじさん、魔王の話より先にすることがあるだろ」
ナツキは、ぐう、と情けなく鳴った自分のお腹をさすった。
「空腹が限界なんだ。異世界の危機を語る前に、まずは温かい飯と、座れる椅子を用意してくれ。話はそれからだ。血糖値が上がらなきゃ、伝説の武器も持てやしないからな」
ナツキのあまりに世俗的な要求に、跪いていた騎士たちの間に動揺が走る。
老神官は一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに営業用の笑みに戻した。
「失礼いたしました。勇者様方の英気を養うための宴は、すでに準備させております。
……ですがその前に、まずは皆様に授けられた『天授スキル』を確認させてください。この鑑定水晶に手を。これこそが、皆様がこの世界で戦い抜くための、神の証明となるのです」
促され、ナツキは胡散臭そうに眉をひそめながらも、目の前の祭壇に鎮座する、淡く発光する水晶へと歩み寄った。
ここで突っぱねても飯にありつけない。
そう判断した彼は、ぷにぷにとした掌を、冷たい水晶の表面に置いた。
『ナツキ:【守護騎士】
固有スキル:全方位メンタルガード
効果:あらゆる攻撃に加え、対象からの「殺意」「暴言」「精神的干渉」を100%遮断する。』
「おお! 鉄壁の盾ではないですか!」
「……メンタルガード? つまり、店員に『おかわり禁止』って言われても傷つかないってことか? なんだ、俺のためのスキルじゃん。最高」
ナツキが満足げに二重顎を揺らす。続くマルモの結果に、神官たちはさらに熱狂した。
『マルモ:【魔導戦士】
固有スキル:火力調整
効果:全属性魔法を使用可能。ただし、出力指定は調理用語に限る。』
「全属性! まさしく大賢者の素質だ!」
「全属性……。ばってん、指定の調理用語? 『中火でじっくり』とか言わんと魔法の出んとね? 難儀かぁ。おいの魔法、全部美味そうな匂いのしそうばい」
マルモは太い腕を組み、不機嫌そうに唸った。
そして最後、カズヤが冷めた目で水晶に触れる。
『カズヤ:【影の斥候】
固有スキル:残機ゼロの神速
能力値:防御力【1】/回避率【0】/移動速度【測定不能】
効果:全防御性能を速度に変換する。触れられれば即死。』
広間が、一瞬で凍りついた。
神官の手から羊皮紙が滑り落ちる。
「ぼ、防御力が、1……? 装備すら重荷になる虚弱……。しかし速度だけは光の如き……。これは、使い物になるのか……?」
「じいさん。今の言葉、俺の耳には届いたけど、ナツキには言わないほうがいいよ。あいつ、食べ物の恨みと仲間の悪口には、反射で『説教』が出るタイプだから。……あ、でも防御1は笑えるね。俺、今ペンで突かれたら死ぬ自信あるよ」
カズヤが静かに、そして楽しげに自嘲する。その時、ナツキが重戦車のような足取りで一歩前に出た。
その瞬間、ナツキの『全方位メンタルガード』が無意識に発動。神官が放った「落胆」という名の無礼な圧力を、ナツキの肉厚な存在感がパキンと弾き返した。
「ひっ……!」
「おいジジイ。カズヤは俺らが認めた『最速』だ。文句あるなら、俺の腹を殴ってみろ。……あ、その前に腹減った。共有インベントリってやつ、使えるんだろ?」
ナツキが空間をなぞるように手を振ると、空中に光の亀裂が現れた。
三人が共有する亜空間倉庫。
ナツキが極太の腕を突っ込み、期待に満ちた顔で取り出したのは――。
「……あ。これ、さっきファミマで買った『つくね棒』。しかも二本入り」
「お、ナツキ、よか仕事した。おいの分も入っとるね?」
「カズヤの分はないけどな」
「いいよ、俺は。……それより二人とも、その『つくね棒』を食い終わったらここを出よう。騎士たちの視線が『勇者様、食い意地張りすぎじゃない?』って冷笑に変わってる。……あ、ナツキには効かないか。メンタルガードだし」
「当然だ。……マルモ、脱出口まで『強火』で道作れるか?」
「任せとかんね。王宮の廊下ば、こんがり焼き上げちゃっけん!」
「決まりだ。行こうぜ。せっかく異世界に来たんだ、美味いもん食って、面白おかしく生きなきゃ損だろ」
ナツキがつくねを口に放り込み、グッと親指を立てる。
これが、後に世界を震撼(あるいは爆笑)させる三弾一組の、最初の一歩。
重苦しい王宮の空気を、肉の匂いと三人の笑い声が塗り替えていく。
俺たちの、俺たちによる、俺たちのための異世界攻略が、今ここから始まった。




