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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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戦いを振り返る一行

騎士たちがまだ動けずにいた。


誰もすぐには近づけない。

今見たものを、どう理解してよいのか、まだ身体の方が納得していないからだ。


ようやく最初に動いたのは、ゼルクだった。


静かに、けれどはっきりとした足取りで前へ出る。


サイラスも続き、四天槍たちも遅れて歩き出した。

だが誰も、先ほどまでのような張った視線では見ていない。


畏れと、敬意と、まだ言葉にならない何か。

そんなものを抱えたまま、近づいてくる。


ゼルクがリオの前で止まり、深く頭を下げた。


「……失礼ながら」

「我らは先ほどまで、“見極める”つもりでおりました」


リオが少し困ったように笑う。


「うん」


「ですが今は」

ゼルクは顔を上げる。

「その考え自体が、あまりに浅かったと理解いたしました」


四天槍のひとりが、ごくりと喉を鳴らす。


「昨日のラルラゴ様とのお手合わせも、たしかに常軌を逸しておりました」

「ですが……」

「今のは、まるで別の景色でした」


別のひとりも続ける。


「剣の強さという話ではない」

「立っておられる場所そのものが違う、としか……」


サイラスはしばらく黙っていたが、やがて低く言った。


「我らはようやく、“長”とされる理由の一端だけを見た気がします」


リオは、その言葉に少しだけ目を伏せた。


まだ自分では、そんな風に思えない。

けれど、彼らが本気で言っていることは分かった。


「……ありがとう」

そう返すしかなかった。


その時だった。


四天槍のうちの一人が、ようやく周囲を見回して息を呑む。


「待て……」

「我々、どうしてまだ立っていられる?」


その一言に、騎士たちがはっとする。


たしかにそうだった。


昨日のラルラゴとの手合わせでは、

結界の内側にいたとはいえ、気絶者すら出た。

腰を抜かし、立っているのもやっとだった。


だが今の戦いは、それ以上だったはずだ。


なのに、自分たちはまだ立っている。

膝が笑い、声を失いはしても、意識は飛んでいない。


サイラスの目が鋭くなる。


「……ノア様」


ノアの光がぴくりと揺れた。


「はい」


「もしや」

サイラスが低く問う。

「我々に、何か施されておりましたか」


ノアは少しだけ迷うように揺れたあと、やがて小さく答えた。


「はい」

「皆さまには、昨夜より少し強めの多重結界を」


沈黙。


四天槍の一人が口をぱくりと開ける。


「少し強め……?」


ノアは続ける。


「戦いの余波だけでも危険と判断いたしましたので」

「念のため、幾重にも」


ゼルクが、ゆっくりと目を閉じた。


「……我らは」

「守られていた、ということか」


「はい」

ノアはやさしく答える。

「ですので、どうか恥じないでくださいませ」


誰もすぐには返せなかった。


守られていたから、立っていられた。

あれを“見届ける”ことができたのは、自分たちが強かったからではない。


その事実は、騎士たちにとって少し痛く、

だが同時に、どこか救いでもあった。


リオがそんな空気をやわらげるように、前方へ視線を向ける。


「……でも」


「せっかくここまで来たんだし、少し見ていこうか」


その言葉に、騎士たちもようやく成埜の地そのものへ目を向けた。


そして改めて、その広さに息を呑む。


成埜の地は、あまりにも広かった。


王から与えられた未開拓地、という言葉で想像していたより、ずっと大きい。

小さな土地どころではない。

視界の端から端まで伸びる草原。

林。

岩場。

水辺。

さらにその奥へ続く地形のうねり。


リオがぽつりと呟く。


「……広いな」


「広い、で済ませていい規模ではありませんね」

ゼルクが低く言う。

「もはや一領地というより、小国の外縁にも近い」


四天槍のひとりも頷く。


「未開拓地というより、まだ誰も手を入れられていない“領域”です」


リオはその先を見つめる。


成埜の地は、ただ広いだけではなかった。


中心部と思しき場所に、

ひときわ異様な地形がそびえている。


断崖絶壁。


それも、一枚岩のように荒々しく隆起した大地が、

ぐるりと高い壁のように広がっている。


まるで地の中心だけが大きく持ち上がり、

その周囲を絶壁で固めたような形だった。


リオが目を細める。


「……あの上が、中心か」


ノアも静かに見つめている。


「おそらく」


サイラスがその地形を見て、思わず漏らす。


「天然の要塞だな……」


「ええ」

ゼルクも頷いた。

「もし拠点とするなら、この上を押さえるだけで防衛の意味が変わる」


ラルラゴがここにいれば、たぶん短く「悪くない」と言っただろう。

ヴァルなら「面白い城が作れそうだ」と笑ったかもしれない。


リオはしばらくその断崖の連なりを見つめていた。


自然の防壁。

最初は、たしかにそう見えた。


だが――


「……ん?」


違和感があった。


ほんの小さなものだ。

見間違いかもしれない。

気のせいかもしれない。


でも、妙に“整いすぎている”。


崖の角度。

連なり方。

高低差のつき方。

ところどころにある不自然な途切れ目。


自然にできたにしては、

どこか“意図”を感じる形をしていた。


リオは小さく首を傾げる。


「自然にしては……変だな」


ノアがリオを見る。


「リオ様も、お感じになりますか」


「うん」

リオは頷く。

「なんていうか……」

「綺麗すぎるわけじゃないんだけど、崩れ方まで含めて、ちょっと出来すぎてる気がする」


サイラスも目を細める。


「人為的、ということですか」


「いや、そこまでは分からない」

リオは正直に答える。

「でも、ただの偶然の地形って感じは、少し薄いかも」


ゼルクは黙って断崖を見つめる。


「……たしかに」

「防壁として都合が良すぎる」


その時だった。


成埜の地のさらに奥。

断崖の向こう、そのまだ見えきらない深部のどこかで――


ふっと、別の気配が揺れた。


リオの目がそちらを向く。


「……誰かいる?」


ほんの一瞬だけだった。


距離が遠い。

輪郭も曖昧だ。


見えたのは、

光の届ききらない奥で、

何かの影が笑ったように見えた、それだけ。


人型にも見える。

だが、確信は持てない。


次の瞬間には、もう消えていた。


「……今の」

四天槍のひとりが息を呑む。


「見えたか?」

と、別の者が問う。


「いや……」

「影だけだ」


リオはその方角を見つめたまま、しばらく動かなかった。


追える距離ではない。

追うべき状況でもない。


なにより、今のは“見せた”というより、

“見えたことだけ残して消えた”ような気配だった。


「……誰だろうな」


その呟きは、風に紛れるほど小さかった。


ノアもまた、その奥を静かに見つめている。


だが、深追いはしなかった。


今ここで追えば、何かを見失う気がした。

まだ、その時ではない。

そんな予感の方が強かった。


リオはやがて視線を戻し、改めて成埜の地全体を見渡す。


広い。

本当に広い。


危険もある。

謎もある。

気になる気配も、消えていない。


でも同時に、この土地がただの“もらった土地”では終わらないことも、

もうはっきりしていた。


「……面白いな」


「はい?」

ノアが見る。


リオは、断崖の向こうを見たまま小さく笑った。


「まだ何も分かってないのに、もう先が気になって仕方ない」


ノアの光がやわらかく揺れる。


「それは、きっと良いことです」


ゼルクも静かに言う。


「成埜の地は、どうやら我らが思っていたより、はるかに深い場所のようですね」


「うん」

リオは頷く。

「だからこそ、見ていきたい」


朝の風が、また成埜の地を吹き抜ける。


戦いは終わった。

けれど、その先に広がるものは、むしろ今ようやく輪郭を見せ始めたばかりだった。


オルビス・ノヴァに与えられたこの土地は、

ただの褒美ではないのかもしれない。


リオは成埜の地の中心、

あの断崖絶壁に囲まれた高台を見つめながら、

静かに胸の奥でそう感じていた。


そこにはまだ、

誰も知らない何かが眠っている。


そしてきっと、

それはこれからの自分たちにとって、

大きな意味を持つことになるのだろう。


その予感だけを抱えたまま、

リオたちはしばし、朝の成埜の地に立ち尽くしていた。

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