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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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あと2人

王と側近たちが去り。


ゼルク、サイラス、四天槍たちも、それぞれに重いものを抱えたまま部屋を後にした。


最後に黒い扉が閉まる。


ゴゥン……


重い音が、ギルドマスタールームに静かに沈んだ。


ようやく。


本当に、アストラ・エクリプスの面々だけになる。


しばらく誰も何も言わなかった。


部屋の中央には、まださっきまでのやり取りの余韻が残っている。


王の礼。


ノアの力。


騎士たちの動揺。


そして、再会。


全部が一度に押し寄せすぎて、逆に静かだった。


最初に口を開いたのは、ヴァルだった。


酒瓶を軽く揺らしながら、いつもの調子で言う。


「さて。」


「王も帰った。」


「騎士どもも帰った。」


「となると、次の話は決まってるな。」


リオが椅子の背にもたれたまま、目だけを向ける。


「……何だ。」


ヴァルはにやりと笑う。


「これからどうするか、だ。」


「せっかく戻ってきたんだ。」


「いや、“戻った”でいいのかは微妙だが。」


リュメリアが肩をすくめる。


「細かいことはいいのよ。」


「要するに、これからどう生きるのって話。」


リオは小さく息を吐く。


「どう生きる、か。」


その響きを口の中で転がすように、少しだけ繰り返す。


ラルラゴは腕を組んだまま、低く言った。


「長い。」


ヴァルが笑う。


「そうなんだよな。」


「しかも、こっちは不老不死みたいなもんだ。」


リュメリアがすぐに訂正する。


「“みたい”じゃなくて、だいぶ不老不死寄りよ。」


ヴァルは酒瓶を傾ける。


「細かい。」


「死んでないんだから十分だ。」


リオが眉をひそめる。


「それを十分と言うな。」


ヴァルが吹き出す。


「ははっ。」


「相変わらず真面目だな。」


ノアはリオの肩の上で、静かに光を揺らしていた。


リオは少しだけ目を伏せる。


「……これから800年、か。」


その言葉に、部屋の空気がわずかに揺れる。


だが今は、誰もその数字を重たく受け取らなかった。


重すぎて、逆に実感がないのだ。


ヴァルが言う。


「焦るな。」


「最初の100年くらいは、だいたい肩慣らしだ。」


リオが真顔で返す。


「その感覚が一番怖い。」


リュメリアが笑う。


「安心して。」


「私も最初に聞いた時、同じ顔したから。」


しばらく、静かな笑いが流れた。


その時。


リュメリアが、ふと思い出したように首を傾げた。


「あれ。」


ヴァルが見る。


「何だ。」


リュメリアはリオを見る。


「そういえば、あと2人のこと、伝えたっけ?」


沈黙。


リオの表情が止まる。


「……は?」


ヴァルの酒瓶を持つ手が止まる。


ノアの光がぴこっと跳ねる。


ラルラゴだけが、目を閉じたまま黙っている。


リオがゆっくり聞き返す。


「……あと2人?」


リュメリアが瞬きをした。


「あ。」


「そっか。」


「そっちでは会ってなかったんだ。」


ヴァルが口元を押さえる。


「はは。」


「おいおい。」


「それはなかなかいい反応だな。」


リオが椅子から少し身を乗り出す。


「待て。」


「今、さらっと流しただろ。」


「あと2人って何だ。」


リュメリアは、悪戯が成功した子供みたいな顔で笑った。


「そのままの意味。」


「アストラ・エクリプスは、今ここにいる4人とノアだけじゃない。」


リオが即座に返す。


「ノアを“だけ”に含めるな。」


ノアが嬉しそうに光る。


「ありがとうございます。」


ヴァルが笑う。


「そこ拾うのか。」


リュメリアは楽しそうに続ける。


「未登場があと2人。」


「ちゃんといる。」


リオの目が、わずかに見開かれる。


「……生きてるのか。」


ラルラゴが短く答える。


「生きている。」


その一言が重い。


リオは息を飲む。


「どこにいる。」


ヴァルが、そこでわざとらしく酒瓶を揺らした。


「いやあ、それを今すぐ全部言っちまうのは、もったいないだろ。」


リオが睨む。


「ヴァル。」


ヴァルは笑う。


「何だ。」


「せっかくの再会なんだ。」


「少しくらい、わくわくしてもいいじゃないか。」


リュメリアも頷く。


「そうそう。」


「こういうのは順番よ。」


リオは呆れたように息を吐く。


「順番、ね。」


「人を5年消したままにしておいて、今さら演出にこだわるな。」


ヴァルが楽しそうに言う。


「それとこれとは別だ。」


リュメリアもさらりと続ける。


「むしろ、こういう時にちゃんと溜めを作るのが大事なの。」


リオは額を押さえる。


「お前ら……。」


ノアが小さく言う。


「リオ様。」


リオが肩の方を見る。


ノアは柔らかく光った。


「きっと、お会いになれば分かります。」


「とても、嬉しいと思います。」


その言い方が、逆に期待を煽る。


リオは少しだけ黙った。


それから、小さく呟く。


「……そんな顔で言うな。」


ヴァルが笑う。


「ほらな。」


「もう気になって仕方ない顔してる。」


リュメリアも机に肘をついて、顎を乗せながら言う。


「ねえ、リオ。」


「どっちから知りたい?」


「名前だけ先に聞く?」


「それとも、会うまで我慢する?」


リオは即答した。


「全部今聞く。」


ヴァルが吹き出す。


「欲張りだなあ!」


ラルラゴが、そこでようやく目を開く。


「落ち着け。」


リオがすぐに返す。


「落ち着いてる。」


ヴァルが笑う。


「その声の低さで言われても説得力ないぞ。」


リュメリアが目を細める。


「でも、いい反応。」


「ちょっと安心した。」


リオが眉をひそめる。


「何がだ。」


リュメリアは静かに言う。


「ちゃんと、昔のリオでもあるんだなって。」


一瞬だけ、部屋が静かになる。


さっきまでの軽さが、ほんの少しだけ柔らかいものに変わる。


リオは何も言わない。


だが、その沈黙は否定ではなかった。


ヴァルが空気を戻すように手を振る。


「よし。」


「じゃあ、ひとまず今日は名前だけにしてやるか。」


リオが即座に食いつく。


「言え。」


ヴァルがにやりと笑う。


「片方はな。」


「お前が会った瞬間、たぶん一番うるさい。」


リュメリアが小さく吹き出す。


「間違いない。」


ラルラゴが低く言う。


「もう1人は、逆だ。」


「静かすぎて怖い。」


リオの表情が、じわじわ変わる。


困惑。


警戒。


そして、隠しきれない期待。


「……なんだそれ。」


ヴァルは楽しそうだった。


「だから、会えば分かる。」


ノアが小さく光る。


「はい。」


「お二人とも、リオ様にお会いできる日を、ずっと待っておられました。」


その言葉に、リオはようやく椅子にもたれ直した。


天井を見上げる。


長く、深い息を吐く。


「……ほんとに。」


「何なんだ、この世界は。」


ヴァルが酒瓶を軽く掲げる。


「今さらだな。」


リュメリアがくすっと笑う。


「ようこそ。」


「アストラ・エクリプスの続きへ。」


ラルラゴは、何も言わない。


だがその沈黙が、どんな言葉よりも確かだった。


リオは目を閉じる。


そして、小さく笑った。


「……続き、か。」


その先に、まだ会っていない2人がいる。


まだ知らない真実がある。


まだ見ていない世界がある。


長いはずの道のりが、ほんの少しだけ近く感じられた。

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