王の覚悟
王は深く頭を下げたまま、震える声で言う。
「褒美を……」
「どうか、何でもお申し付けください。」
リュメリアがすぐに手を振る。
「そんなの必要ありませんよ。」
ヴァルも笑う。
「そうそう。」
「酒代くらいなら自分で何とかする。」
リュメリアが横目で睨む。
「あなたは黙ってて。」
王は顔を上げない。
「どうか……」
「このままお帰しするなど、あまりにも申し訳ない。」
ラルラゴは黙っている。
ノアも静かだ。
リオも何も言わない。
王は続ける。
「褒美の件は、後日。」
「必ず、正式にご相談させていただきます。」
「ですが、せめて今この場で受け取っていただきたいものがございます。」
ヴァルが眉を上げる。
「ほう?」
王が言う。
「王国未開拓地――」
「成埜の地の所有権。」
部屋が静まる。
「加えて、開拓許可。」
「そして開拓に必要な費用は、すべて王家が負担いたします。」
サイラスが小さく息を呑む。
ゼルクも目を細める。
王はさらに続ける。
「それだけでは足りませぬ。」
「王国全域において、飲食はすべて無料。」
「宿泊、移動、娯楽施設に至るまで、自由利用の権利をお納めください。」
ヴァルが思わず吹き出す。
「娯楽施設まで入るのか。」
リュメリアが額を押さえる。
「極端なのよ。」
王は真剣だった。
「足りぬことは承知しております。」
「ですが、何も差し出さぬままでは、我らの心が済みませぬ。」
リオが静かに王を見る。
そこには打算がない。
本気の感謝だけがある。
ラルラゴが低く言う。
「不要だ。」
王は即座に答える。
「それでもです。」
ヴァルが笑みを消す。
リュメリアも、王の目を見る。
側近も貴族たちも、全員が本気で頭を下げている。
ノアが小さく光る。
やがて、ヴァルがため息まじりに笑う。
「……ここまで言われると、断る方が野暮か。」
リュメリアも肩をすくめる。
「そうね。」
「とりあえず、預かる形にしておきましょう。」
ラルラゴは短く言う。
「好きにしろ。」
王の顔に、ようやくわずかな安堵が浮かぶ。
「……ありがとうございます。」
その後、王は一行に再び礼を述べ、側近と貴族たちを連れて部屋を後にする。
だが。
扉が閉まりかけた、その瞬間。
1人だけ足を止める者がいた。
王の側近。
エルド・セイラン。
彼はゆっくり振り返ると、再びその場に膝をついた。
「もう1つだけ。」
部屋の視線が集まる。
エルドは両手で、薄い銀板のような許可証を捧げ持つ。
「玉樹の書庫への入室許可を、お受け取りください。」
リュメリアの目が細くなる。
ヴァルも、わずかに笑みを消す。
エルドは続ける。
「陛下からではなく。」
「私個人の判断として、お渡しします。」
「……きっと、必要になられます。」
その一言を残し、エルドは深く頭を下げた。
そして静かに立ち上がり、今度こそ部屋を後にする。
扉が閉まる。
部屋の空気が変わる。
ヴァルが、酒瓶を揺らしながら低く笑う。
「……ただの側近じゃないな、あいつ。」
リュメリアも小さく頷く。
「ええ。」
「分かってる顔だった。」
リオは、テーブルの上に置かれた許可証を見る。
玉樹の書庫。
その名だけで、何かが動き始める気がした。




