老剣士との出会い
「もう一回!」
カイルが木剣を振る。
「うおりゃ!」
ぶん、と空を切る音。
僕は首を振る。
「力入れすぎ。
剣は振るんじゃない。通すんだ」
「通す?」
ナーシャが首をかしげる。
僕は木剣を軽く構える。
「ほら、こう」
すっと腕を動かす。
ほとんど音はしない。
でもカイルの木剣が、
ぴたりと弾かれて止まった。
「おお!」
トルクが目を丸くする。
「今のどうやったの!?」
「力じゃないよ。
剣は――」
その時だった。
「……ほう」
後ろから、
低い声が聞こえた。
僕たちは振り向く。
そこに立っていたのは
一人の老人だった。
背は高くない。
少し曲がった背中。
古い外套。
腰には一本の剣。
街では見ない顔だ。
老人はゆっくり歩いてくる。
「面白い剣を使う」
僕は少し警戒する。
「……えっと」
老人はカイルの構えを見て、
静かに言う。
「素質がある」
カイルが目を輝かせる。
「ほんと!?」
「うむ。
だが、その剣ではまだ粗い」
老人は次にナーシャを見る。
「この娘もいい」
ナーシャが胸を張る。
「でしょ!」
「だが動きが速すぎる。
剣は走らせるものではない」
ナーシャがむっとする。
そして老人の視線が
僕に向いた。
少しの沈黙。
「……なるほど」
老人は小さく笑う。
「教えているのは、お前か」
僕はうなずく。
「まあ、少しだけ」
老人はじっと僕の手元を見る。
「お前の剣は――」
少し間を置いて言った。
「磨けば、とんでもないものになる」
僕は苦笑する。
「いや、そんな……」
老人は首を振る。
「いや。なる」
静かな声だった。
「それも、
ずっとずっと強くなる」
僕は少し戸惑う。
「僕はただの……」
言葉が止まる。
老人は気にした様子もなく言った。
「修行してみないか」
「……え?」
「お前の剣だ」
老人の目が細くなる。
「もっと磨き上げられる」
「それも」
少し笑う。
「お前が思っているより、
はるかに遠くまでな」
僕は思わず言う。
「……いや」
首を振る。
「僕はそういうの、
向いてないんで」
老人は黙る。
僕は少し言い訳する。
「僕、外れスキルなんです」
「夢を覚えてるだけの」
「戦える人間じゃない」
老人は一瞬だけ目を細めた。
でもすぐに
いつもの表情に戻る。
「……そうか」
短い沈黙。
その時、ナーシャが小声で言う。
「ねえ」
「この人……」
カイルがはっとする。
「もしかして……」
トルクがぽつりと言う。
「ギルドで噂になってた……」
三人が同時に言った。
「町外れで剣を振ってる老剣士」
僕は驚く。
「え?」
老人は少しだけ笑う。
「……噂になっておるのか」
カイルが興奮する。
「すげえ!」
「毎日一人で剣振ってる人!」
ナーシャも言う。
「めちゃくちゃ強いって!」
僕は老人を見る。
老人は肩をすくめる。
「ただの年寄りだ」
そして僕を見て言う。
「……まあいい」
「気が向いたら来い」
「町外れの森だ」
老人は振り返る。
「剣は、逃げん」
「だが――」
最後に一言。
「機会は、いつも待ってくれるわけではない」
そう言って
老人はゆっくり去っていった。
空き地に沈黙が落ちる。
カイルが言う。
「リオ兄ちゃん」
ナーシャも言う。
「今の……」
トルクがつぶやく。
「絶対すごい人だよ」
僕はしばらく
老人の背中が消えた道を見ていた。
……でも。
結局その時は
ただ一つしか思わなかった。
「……僕には関係ない人だ」




