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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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王の来訪

ノアが肩に戻り、部屋の空気がようやく落ち着きを取り戻し始めた頃だった。


ギルドマスタールームの中には、まだ白金の光の余韻が残っている。


だが、その空気を切るように、ラルラゴが低く言った。


「……我々は。」


短い沈黙。


全員の視線が向く。


「天該を知りすぎた。」


部屋の空気が変わる。


ゼルクも、サイラスも、四天槍も、 instinct で分かる。


今、口にしてはならない名が出たのだと。


ラルラゴは続ける。


「そして。」


「近づきすぎた。」


その一言に、リオの目が静かに細くなる。


ヴァルも、今だけは酒瓶を揺らさなかった。


リュメリアの顔からも、薄い笑みが消えている。


ラルラゴは、まっすぐリオを見た。


「リオ。」


「お前が一番な。」


部屋がしんと静まり返る。


リオは何も言わない。


その沈黙のまま、ラルラゴは視線を少しだけずらした。


ノアを見る。


「ノアもな。」


「まあ。」


ほんのわずかに息を置く。


「ノアは、最初から近い存在だが。」


ノアは小さく、静かに光った。


それは肯定でも否定でもない。


ただ、受け止める光だった。


リオが低く聞く。


「……俺が封じられた理由は。」


ラルラゴは即答しなかった。


数秒だけ沈黙し、それから言う。


「まだ言う時ではない。」


短い。


だが、拒絶ではない。


“今ではない”というだけだ。


リュメリアが静かに補う。


「今はまだ、話すより先に進めることの方が多い。」


ヴァルも軽く肩をすくめた。


「知れば全部片付く、なんて話でもないしな。」


リオは椅子の肘掛けに指を置いたまま、しばらく黙っていた。


だがやがて、小さく息を吐く。


「……分かった。」


その時だった。


扉の外から、慌ただしい足音が近づいてくる。


コン、コン、と封印扉が叩かれた。


外から声がする。


「失礼いたします!」


王の使いだ。


緊張で声が裏返っている。


「陛下がお呼びです……!」


ヴァルが、ようやく酒瓶を軽く持ち上げた。


「ほう。」


「来たか。」


リュメリアが立ち上がる。


「じゃあ、行きましょうか。」


リオも席から立ちかける。


その時だった。


ギルドマスタールームの大扉が、ほんの少しだけ開いた。


隙間の向こうから、張り詰めた声が響く。


「その必要はございません!」


部屋の中の全員が視線を向ける。


王の側近だった。


顔色を変え、しかしはっきりとそう言い切っていた。


次の瞬間。


重い黒扉が、ゆっくりと大きく開いていく。


ギギギギ……


その向こうに現れたのは――


王。


その側近たち。


そして、王国の最高貴族たち。


誰もが正装だった。


だが、その顔には、威厳よりも緊張が浮かんでいる。


ゼルクが、思わず息を呑んだ。


「……王自ら。」


サイラスも、目を細める。


「ここまで来るか。」


四天槍たちは即座に立ち上がり、頭を垂れる。


だが。


部屋の中心にいるアストラ・エクリプスの面々は、動かない。


王は数歩進んだ。


そして。


玉座の間でも、戦場でも、誰の前でも決して見せない動きで――


膝をついた。


側近たちも。


最高貴族たちも。


それに続いて、その場にいた王側の全員が、一斉に膝をつく。


部屋の空気が完全に変わった。


四天槍の女剣士が、目を見開く。


「……王が。」


サイラスが乾いた声を漏らす。


「本当に、膝をついた……」


王は頭を垂れたまま、深く言った。


「……この度は。」


「我が国を救っていただき、心より感謝申し上げます。」


沈黙。


その言葉の重さが、部屋の隅々まで落ちていく。


王は続ける。


「何とお礼を申し上げればよいか……」


「特に今回は。」


「ノア様。」


その名に、全員の視線がノアへ向く。


小さな魔虫の姿で、リオの肩に乗っているノアへ。


王は頭を下げたまま言う。


「あなた様が、お一人で……」


「恐れ入りました。」


ノアは小さく光を揺らした。


返す言葉がないのではない。


ただ、こういう敬礼に慣れていないだけだった。


ヴァルが、そこでようやく困ったように笑った。


「いやいや。」


「大袈裟ですよ、陛下どの。」


酒瓶を持ったまま、ひらひらと手を振る。


「頭を上げてくださいな。」


だが。


王は頭を上げない。


側近も、貴族も、誰1人上げない。


それを見て、ヴァルの笑みが少しだけ薄くなる。


「……陛下どの?」


王は静かに答えた。


「いいえ。」


「これは、大袈裟ではございませぬ。」


ようやく少しだけ顔を上げる。


その目は、本気だった。


「我らは、救われました。」


「外の者らには分からぬでしょう。」


「だが、私は知っております。」


「あなた方がおられなければ、この国は今日終わっていた。」


部屋の隅で、最高貴族の1人が震える声で言う。


「我らは……ただ守られるだけでした。」


別の1人も続ける。


「それを当然と思い、感謝すら忘れかけておりました。」


王の側近が、深く頭を下げた。


「どうか。」


「我らの非礼も含め、お許しください。」


部屋は静まり返っていた。


ゼルクが、その光景を見ながら低く呟く。


「……これが、本当の意味で国を守る者たちか。」


サイラスも小さく頷く。


「王すら、礼を言いに来る。」


「いや、礼を言わずにいられないのか。」


リオは、その光景を黙って見ていた。


王が。


貴族が。


皆、膝をついている。


そしてその中心にいるのは、自分ではない。


ラルラゴであり、ヴァルであり、リュメリアであり、ノアだった。


“ああ、そうか”と、どこかで理解する。


この人たちは、本当にそういう存在なのだと。


ヴァルが、頭を掻くように笑った。


「ほんと、困るな。」


「そうまでされると、こっちが居心地悪い。」


リュメリアも小さく肩をすくめる。


「感謝は受け取るけど。」


「崇められるのは趣味じゃないのよね。」


ラルラゴは何も言わない。


だが、その沈黙が許しに近いことは、王には分かっていた。


王は、ようやく少しだけ呼吸を整えた。


そして静かに言う。


「それでも、申し上げます。」


「ありがとうございます。」


部屋の空気は重い。


だが、不思議と苦しくはなかった。


ただ、本物の敬意がそこにあった。


ノアが、リオの肩の上で小さく光る。


その光は、少しだけ落ち着かないようでもあり、少しだけ誇らしげでもあった。


リオは指先で、そっとノアに触れた。


小さな声で言う。


「……すごいな、お前。」


ノアは小さく、嬉しそうに揺れた。

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