違和感の理由
重い扉が開き、別の遣いが飛び込んでくる。
王家直属の使者だった。
だが、部屋の空気に圧され、やはり入口で膝をつく。
「報告いたします!」
「王命により、至急お伝えに参りました!」
ヴァルが酒瓶を傾けながら言う。
「言わんでも分かってる。」
使者は一瞬、言葉を失う。
「……は?」
ヴァルは笑う。
「外が騒がしいだろ。」
「だいぶ前から知ってる。」
使者が困惑したまま、それでも報告を続ける。
「は、はい……!」
「王都全周、天階Ⅲ級魔獣1万以上!」
「その群れの中に、知能を有する天階Ⅳ級個体が複数確認されています!」
「王国は国家危機レベルを最高位に引き上げ――」
ヴァルが手をひらひらさせる。
「そこまででいい。」
「聞こえてる。」
使者は完全に混乱していた。
サイラスがその横で呟く。
「……もう分かりません。」
リュメリアが少し笑う。
「安心しなさい。」
「私たちも、たまに分からなくなるから。」
使者は青ざめたまま、ラルラゴを見る。
だがラルラゴは、何も言わない。
代わりに、ヴァルがリオの方へ顔を向けた。
「そういや。」
「リオ。」
リオが目を向ける。
ヴァルはにやりと笑った。
「お前、この世界でのノアの実力、まだちゃんと見てなかったな?」
部屋の空気が少し変わる。
ノアが肩の上で小さく揺れた。
リオが目を細める。
「……そういえば。」
「肩にいる姿しか見てないな。」
ヴァルは楽しそうに酒瓶を掲げる。
「おい、ノア。」
「見せてやれ。」
ノアが静かにヴァルを見る。
ヴァルは笑う。
「遊んでこい。」
一瞬、静寂。
ノアは何も言わない。
だが次の瞬間、小さな魔虫の姿がふわりと浮いた。
そして。
「かしこまりました。」
その声だけで、部屋の温度が変わった。
ノアの小さな光が、静かに、しかし恐ろしいほど澄んだ白金へ変わっていく。
使者が震える声を漏らす。
「……え。」
ゼルクが、初めてほんのわずかに笑った。
「なるほど。」
「ここから先は、もはや報告ではなく観覧だな。」
サイラスが乾いた声で言う。
「観覧で済めばいいですけどね……」
リオは黙ってノアを見ていた。
肩に乗っていた、小さな家族。
だが今、その光の奥から立ちのぼっているものは。
国家そのものを護る存在の、それだった。
ノアは静かに言う。
「リオ様。」
リオが目を向ける。
ノアは、ほんの少しだけ柔らかく光った。
「すぐ戻ります。」
その次の瞬間。
白金の光が、部屋ごと揺らした。




