王城、謁見の間。
重い警鐘が、外から何度も響いていた。
ゴォォォン――
ゴォォォン――
城の外では兵士たちが怒号を飛ばし、伝令が走り回り、王都全体が明らかに非常事態に包まれている。
だが。
謁見の間の空気だけは、妙に落ち着いていた。
王座の前で、鎧姿の兵が膝をつき、必死の形相で叫ぶ。
「ご報告いたします!」
「王都全周、外縁部にて大規模魔獣群を確認!」
「空も地も埋め尽くされています!」
「主力は天階Ⅲ級、確認数1万を突破!」
「さらに群れの中に、知能を有する天階Ⅳ級個体が複数――」
その言葉を聞いても、貴族たちの顔色は変わらない。
むしろ。
1人が鼻で笑った。
「何が天階Ⅴだ。」
別の貴族も、肩を揺らして笑う。
「大袈裟なのだ。」
「警戒レベルⅤなど、そんなもの本当に使う日が来るわけがなかろう。」
王族の1人も、わずかに口元を緩める。
「騒ぎすぎだ。」
「せいぜいⅠかⅡだろう。」
さらに別の男が笑った。
「そうだ。」
「レベルⅤとは、言葉だけが歩きすぎている。」
「この国に、あの方々がおられるというのに。」
その瞬間。
謁見の間の空気に、妙なズレが生まれる。
外の兵士たちは青ざめ、今にも崩れそうな顔をしている。
だが中の貴族たちは、余裕を崩さない。
それは異様だった。
一方では、終わりを見ている。
もう一方では、何も起きていない顔をしている。
その差を作っている理由は、たった1つ。
城の中に、アストラ・エクリプスがいる。
それを知っている者たちは、恐怖より先に“安心”を抱いていた。
だが。
王だけは笑っていなかった。
王座に座ったまま、静かに彼らを見下ろしている。
やがて、低く口を開いた。
「……笑うな。」
その一言で、謁見の間が静まり返る。
先ほどまで笑っていた貴族たちが、ぴたりと口を閉じる。
王は立ち上がらない。
ただ、その目だけが冷たかった。
「お前たちが今、息をしていられるのは。」
「この国がまだ滅んでおらぬのは。」
「この城に、あの方々がおられるからだ。」
沈黙。
誰も反論できない。
王はゆっくりと続ける。
「敬え。」
「ひれ伏せ。」
「感謝しろ。」
「当たり前と思うな。」
その声は静かだ。
だが、逆らえる者はいない。
「お前たちは強くない。」
「お前たちでは、脅威から国民を救えぬ。」
「救えるのは、あの方々だけだ。」
貴族たちの顔から笑みが消える。
1人が慌てて膝をつく。
「……し、失礼を。」
別の1人も続く。
「我らが浅はかでした……」
王族の1人も、ようやく頭を下げる。
「申し訳ございません。」
やがて、その場にいた全員が、静かに跪いた。
王は彼らを見下ろしたまま言う。
「分かったならよい。」
「すぐに報告せよ。」
「アストラ・エクリプスへ。」
「一刻も早く、な。」
「はっ!!」
伝令役の騎士が飛び出していく。
その足音が遠ざかるのを聞きながら、王はようやく小さく息を吐いた。
そして、誰にも聞こえぬほどの小さな声で呟く。
「……どうか。」
「今日も、この国を。」
その続きを、口にする者はいなかった。




