突然の、脅威レベル「天階Ⅴ」
ギルドマスタールームの空気が、ようやく少し落ち着き始めた、その時だった。
遠くで、鐘の音が鳴った。
ゴォォォン――
重い。
嫌な音だった。
リオがわずかに顔を上げる。
ヴァルは酒瓶を持ったまま、眉ひとつ動かさない。
リュメリアも椅子に座ったまま、目だけを窓の方へ向ける。
ラルラゴは無言。
ノアだけが、肩の上で小さく光を揺らした。
次の瞬間、また鳴る。
ゴォォォン――
ゴォォォン――
サイラスが立ち上がった。
「……警鐘?」
ゼルクも顔をしかめる。
「しかも、ただの警戒音じゃないな。」
四天槍の1人が、青ざめた顔で呟く。
「この鳴らし方……」
「国家危機級です。」
部屋の外、遠くの城内でも慌ただしい足音が走っていた。
窓の外では、空を横切る伝令鳥の群れが見える。
リオが低く聞く。
「何が起きた。」
四天槍の銀髪の女剣士が、反射的に答えた。
「この鳴り方は、警戒レベル最高位です。」
「国を囲む規模の魔獣災害か、あるいはそれ以上……」
その言葉を遮るように、扉の外から叫び声が響く。
「報告! 報告ッ!!」
重い扉が開く。
血相を変えた伝令兵が飛び込んできた。
だが、部屋の中の空気に圧され、数歩目で膝をついた。
「し、失礼いたします!」
「王都全周、外縁部にて大規模魔獣反応を確認!」
「地上、上空、地下反応まで含め、都市全体が包囲されつつあります!」
サイラスが息を呑む。
「包囲だと……?」
伝令兵は震える声で続けた。
「群れの主力は、天階Ⅲ級魔獣!」
「確認数、1万を突破!」
その場の空気が凍った。
四天槍の大男が椅子を鳴らして立ち上がる。
「1万……!?」
銀髪の女剣士も顔色を失う。
「馬鹿な……」
「その数なら、国が3つ滅ぶ規模よ……!」
伝令兵はさらに叫ぶように報告した。
「加えて、群れの中に天階Ⅳ級個体を複数確認!」
「統率反応あり!」
「知能を持った個体が混ざっています!」
ゼルクが低く吐き捨てる。
「最悪だな。」
サイラスの声は乾いていた。
「Ⅲの群れにⅣが混ざる?」
「それ、ただの魔獣災害じゃない。」
四天槍の1人が呟く。
「……脅威中の脅威だ。」
伝令兵は最後に声を張り上げた。
「警戒レベルは、天階Ⅴへ引き上げられました!」
沈黙。
誰も軽く息をできない。
部屋の中にいる一般の騎士たちは、今にも吐きそうな顔をしていた。
だが。
おかしかった。
この部屋の中心にいる者たちは、あまりにも落ち着きすぎていた。
ヴァルは酒を飲んでいる。
リュメリアは肘掛けに頬杖をついている。
ラルラゴは、まるで外の風が少し強くなっただけのような顔をしている。
リオがそれを見て、静かに言った。
「……随分と静かだな。」
ヴァルが笑う。
「騒いでも減らん。」
リュメリアも小さく肩をすくめる。
「そういうこと。」
ノアが、肩の上でぴこっと光った。
「来ましたね。」
リオは目を細める。
「来ると分かってたのか。」
答えたのはヴァルだった。
「まあな。」
「遅いくらいだ。」
伝令兵は目を白黒させている。
「お、遅い……?」
サイラスが思わず言った。
「待て。」
「この状況で、その反応は何なんです。」
ヴァルはにやりと笑っただけだった。




