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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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ノアの想い

部屋の空気が静まる。


四天槍の1人が、思わず小さく声を漏らした。


「……あれが。」


ゼルクは黙ったまま、リオだけを見ている。


リオは数秒、何も言わなかった。


だがやがて、ゆっくりとその席へ歩いた。


1歩。


また1歩。


その背中を見て、リュメリアが小さく笑う。


「やっぱり。」


「座り方、忘れてないんだ。」


リオは答えず、その席に腰を下ろした。


肘掛けに手を置く。


背を預ける。


その動きは自然だった。


あまりにも自然で、四天槍の女剣士が言葉を失う。


「……似合いすぎる。」


ゼルクが低く言った。


「似合うんじゃない。」


「もともとそこにいた男だ。」


沈黙。


そして、ようやく全員が座った。


ラルラゴはリオの右。


ヴァルは左。


リュメリアは斜め前。


ゼルクとサイラス、四天槍は少し離れた位置に着く。


ノアはリオの肩に乗ったまま、静かに光っていた。


しばらく誰も口を開かなかった。


最初に沈黙を破ったのは、リオだった。


「……で。」


低く、落ち着いた声だった。


「聞きたいことは山ほどあるだろうが、まずはそっちからだ。」


ヴァルが口元を上げる。


「相変わらず話が早い。」


ラルラゴが静かに言う。


「何があった。」


短い問い。


だが、それだけで十分だった。


リオは目を閉じる。


少しだけ息を吐く。


「……長い話になる。」


ヴァルが笑う。


「どうせ今さらだ。」


リュメリアが頷く。


「聞くわ。」


ノアも静かに目を伏せた。


リオはゆっくりと語り始める。


夢記録世界で目覚めたこと。


そこで過ごした時間。


戦い。


旅。


国々。


剣。


魔術。


生きた人生の重み。


その説明そのものは、この場では細かく描かれない。


ただ――


ページをめくるように、場面は移る。


少し時間が経った後。


同じ部屋。


空気は最初とまったく違っていた。


誰も軽く息を吸えない。


理解しきれないのに、否定もできない。


それほどの話だった。


リュメリアが椅子に深く座り直し、天井を見て言う。


「……へえ。」


「私って、その世界だとすっごい悪い女だね。」


ヴァルが吹き出す。


「そこを拾うのか。」


リュメリアは肩をすくめる。


「だって気になるでしょ。」


「未来の私は、ちゃんと性格悪かった?」


リオが少し笑う。


「ちゃんと、って言い方はどうかと思うが。」


「まあ、だいぶ好き勝手やってた。」


リュメリアが満足そうに頷く。


「よし。」


「安心した。」


ゼルクが思わず口を挟む。


「どこに安心する要素があるんだ……」


サイラスも小さく頷く。


「俺も今、それは思った。」


ヴァルが酒瓶を持ったまま笑う。


「こいつはな。」


「性格が悪いって言われると、褒め言葉として受け取るんだ。」


リュメリアが横目で睨む。


「失礼ね。」


「私は正確なの。」


ラルラゴは腕を組んだまま、まだ黙っていた。


だが、その沈黙は拒絶ではない。


すべてを噛み砕いている沈黙だった。


やがて、リオが少し顔を横に向けた。


肩の上のノアを見る。


小さな光。


いつもの、愛しい姿。


リオは静かに聞いた。


「……ノア。」


ノアがぴこっと光る。


「はい、リオ様。」


リオは少しだけ目を細める。


「1つ、ずっと引っかかってた。」


ノアは黙って聞いている。


リオは続けた。


「他の3人は、今とほとんど変わらない姿で現れた。」


「なのに、どうしてお前だけ――」


少し間を置く。


「本当の穣天使の姿にならずに、ずっと魔虫のままで、俺のそばにいてくれたんだ。」


部屋の空気が変わる。


ヴァルが笑みを消す。


リュメリアも、腕を組み直した。


ラルラゴだけは、静かにノアを見ている。


ノアはしばらく黙っていた。


やがて、小さな姿のまま、静かに口を開く。


「……リオ様が。」


「この時代に生を受けた、その瞬間に。」


声は柔らかい。


だが、その柔らかさの奥に、長い時間が沈んでいた。


「わたくしは、穣天使の姿と力を封じられました。」


ゼルクが目を見開く。


サイラスも息を止める。


四天槍の1人がかすれた声を漏らす。


「封じ……られた?」


ノアは頷いた。


「はい。」


「魔虫の姿に変えられ、元の姿へ戻ることも許されませんでした。」


リオの眉が動く。


「……そんな。」


ノアは首を横に振る。


「ですが。」


「わたくしには、記憶が残されておりました。」


その一言で、部屋の重さが少し変わった。


ノアは続ける。


「それが、何よりの救いでした。」


「リオ様を忘れずに済みましたから。」


リオは何も言えない。


ノアの声だけが、静かに響いていく。


「リオ様が、あの世で生を受けてから。」


「わたくしは魔虫のまま、ずっと生き続けました。」


「森で。」


「ただ、見つけていただける日を信じて。」


ヴァルが目を閉じる。


リュメリアも珍しく口を挟まなかった。


ノアの声は、少しだけ揺れた。


「ですが。」


「見つけていただく直前、魔物に襲われました。」


「体の一部を喰われ、もうここまでかと……そう思いました。」


リオの指先が、肘掛けをわずかに掴む。


ノアは言った。


「その時です。」


「リオ様が来てくださったのは。」


沈黙。


その森の場面が、リオの脳裏に鮮やかに蘇る。


血まみれの小さな存在。


か細い光。


震える呼吸。


自分の手の中にあった温度。


ノアは続ける。


「何も疑うことなく、リオ様はわたくしに血を分けてくださいました。」


「その血によって、わたくしは一命を取り留めました。」


「そして、その瞬間。」


「穣天使の本来の力を、取り戻したのです。」


サイラスが小さく息を呑む。


「……あの時点で、戻れたのか。」


ノアは頷く。


「はい。」


リオが、ゆっくり聞く。


「じゃあ、どうして。」


「どうしてそのまま、元の姿に戻らなかった。」


ノアは少しだけ微笑んだ。


「驚かせてしまいます。」


「きっと、何をどう申し上げても、当時のリオ様にはご納得いただけないと思いました。」


「それに。」


少しだけ、声が柔らかくなる。


「わたくしは。」


「リオ様の肩にいるのが、好きでしたから。」


部屋が静まり返る。


ヴァルが、ふっと笑った。


「はは。」


「素直だな。」


リュメリアも目を細める。


「ほんと、この子は。」


ノアは続けた。


「ですから、わたくしは魔虫の姿のまま、リオ様の肩でお供することを選びました。」


「それが、わたくしの望みでした。」


リオはしばらく黙っていた。


そして、ようやく小さく息を吐く。


「……だからか。」


ノアが首を傾げる。


「はい?」


リオは少し笑った。


「お前がヴァルに懐いた時も。」


「預けた時も。」


「なぜか、他人に預けた気がしなかった。」


ヴァルが酒瓶を揺らして笑う。


「そりゃそうだ。」


「こいつからすりゃ、俺は昔からの仲間だからな。」


リオが目を細める。


「やっぱり、そういうことか。」


ノアは静かに頷いた。


「はい。」


「わたくしにとって、ヴァル様も、ラルラゴ様も、リュメリア様も。」


「ずっと変わらぬ仲間です。」


ラルラゴがその時、初めてノアに向かって言った。


「よく耐えた。」


短い一言だった。


だがノアは、嬉しそうにふわりと光った。


「ありがとうございます。」


リュメリアが小さく笑う。


「ほんと、あんたは一番まっすぐね。」


ノアは答える。


「リオ様をお待ちすることが、わたくしの役目でしたから。」


リオは、そっと肩に乗るノアに触れた。


指先が震えていた。


怒りではない。


悲しみでもない。


ただ、ようやく繋がったものの重さに、少しだけ言葉を失っていただけだった。


「……ごめんな。」


ノアが、はっとする。


「リオ様。」


リオは目を伏せたまま言う。


「1人で待たせた。」


「長く。」


ノアはすぐに首を横に振る。


「いいえ。」


「見つけてくださいました。」


「それだけで、十分です。」


その言葉に、部屋の空気が少しだけ緩んだ。


ゼルクは黙ってその光景を見ていた。


やがて、低く呟く。


「……神話の席だな。」


サイラスが、小さく頷く。


「俺たちが今いるのは、そういう場所なんでしょうね。」


ヴァルが酒瓶を机に置く。


「さて。」


「しんみりするのは、この辺でいいだろ。」


リュメリアが肩をすくめる。


「そうね。」


「泣く役はノアだけで十分。」


ノアが少し頬を膨らませる。


「泣いておりません。」


ヴァルが笑う。


「そういうことにしておこう。」


そして、部屋の空気がもう1度、少しだけ変わった。


過去が1つ、綺麗に繋がった。

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