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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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SSSギルドマスタールーム

広場には、まだ余波が残っていた。


砕けた石畳。


抉れた地面。


ところどころで立ちのぼる白い砂煙。


ノアの張った異結界がなければ、観戦していた者たちは全員、立ってすらいられなかっただろう。


結界の内側では、腰を抜かした兵士が震えている。


気を失った者も、そのまま石畳に倒れ込んでいた。


四天槍の1人が、ようやく浅い息を吐く。


「……終わった、のか。」


絶騎士団の幹部サイラスが、喉を押さえるようにして言う。


「終わった、というより……」


「止まった、という感じですね。」


ゼルクは目の前を見たまま、低く呟いた。


「いや。」


「終わったんだ。」


「これ以上続いていたら、結界が先に保たなかった。」


ノアは穣天使の姿のまま、静かに羽をたたむ。


白金の結界が、ゆっくりと薄れていく。


その向こうで、リオとラルラゴが向かい合ったまま立っていた。


ラルラゴは無傷。


リオは血を流しながらも立っている。


それだけで、見ていた者たちの常識は十分に壊れていた。


ヴァルが、酒瓶を揺らしながら笑う。


「いやあ、いいものを見た。」


「やっぱり酒が進むな。」


リュメリアが呆れたように言う。


「この人、本当にそればっかり。」


リオは血を拭いながら、息を整える。


その呼吸は荒れているのに、乱れてはいなかった。


ラルラゴがリオを見て、短く言う。


「終わりだ。」


リオは小さく笑った。


「……負けたな。」


ヴァルがすぐに口を挟む。


「大健闘、だろ。」


「そこは素直に認めてやれ、ラルラゴ。」


ラルラゴは答えない。


だが、わずかに細めた目が、その答えだった。


リュメリアが肩をすくめる。


「認めてるから黙ってるのよ。」


「分かりやすいじゃない。」


ノアは、ようやく穣天使の姿を解いて、小さな魔虫の姿へ戻った。


ふわりと光をたたみ、そのままリオの肩へ降りる。


リオは小さく笑う。


「おかえり。」


ノアがぴこっと光る。


「はい。」


その空気を、ヴァルがぱん、と手を叩いて崩した。


「さて。」


「いつまでも広場で突っ立ってるのもなんだ。」


「そろそろ城の中へ行こうか。」


リュメリアも頷く。


「そうね。」


「話したいことは山ほどあるし。」


ヴァルがリオを見て、にやりと笑う。


「お前も聞きたいこと、山ほどあるだろ?」


リオは肩を回しながら答える。


「ありすぎて、どこから聞けばいいか分からん。」


ヴァルは楽しそうに言う。


「ならちょうどいい。」


「椅子に座って、順番に潰していこう。」


ラルラゴが背を向ける。


「来い。」


たった一言。


だが、その一言に逆らえる空気ではない。


リオは剣を収め、ノアを肩に乗せたまま歩き出す。


ヴァルとリュメリアも続く。


だが、その時。


ラルラゴが足を止めた。


振り返りもしないまま、低く言う。


「お前たちも来い。」


広場の空気が止まる。


呼ばれたのは、結界の中で見届けていた者たちだった。


四天槍。


そしてゼルクとサイラス。


四天槍の銀髪の女剣士が、目を見開く。


「……え?」


サイラスが思わずゼルクを見る。


「団長。」


「今、俺たちも来いって言いましたよね。」


ゼルクは、珍しくすぐには答えられなかった。


四天槍の大男が乾いた声を漏らす。


「俺たちが……?」


「中へ……?」


別の騎士が、ごくりと唾を飲む。


「いいのか……?」


「いや、いいのかじゃない。」


「なんでだ……?」


サイラスが額の汗を拭う。


「冗談じゃない。」


「近くにいるだけで心臓が飛び出しそうなんだが。」


四天槍の1人も、顔色を失ったまま呟く。


「今の手合わせを見た後で……」


「同じ部屋に入れと……?」


銀髪の女剣士が、小さく息を吸う。


「気絶しそうだ。」


その言葉に、ヴァルが振り返って笑った。


「安心しろ。」


「さっき気絶しなかったんだ。」


「今さら部屋に入ったくらいじゃ死にはしない。」


サイラスが真顔で返す。


「死ぬより気まずいです。」


リュメリアがくすっと笑う。


「それは分かる。」


ゼルクは数秒だけ黙っていた。


やがて、ゆっくり息を吐く。


「……行くぞ。」


サイラスが振り向く。


「団長、本気ですか。」


ゼルクは真っ直ぐ前を見たまま答える。


「ここで断ったら、一生後悔する。」


四天槍の大男も、腹を括ったように頷く。


「……だな。」


「ここまで見ておいて、最後だけ目を逸らすのは騎士じゃない。」


銀髪の女剣士が、小さく苦笑する。


「手、震えてるけどね。」


「私も。」


サイラスが顔をしかめる。


「俺は心臓が嫌な音を立ててます。」


ヴァルが笑う。


「それでいい。」


「まともな反応だ。」


リオは少しだけ振り返って、その様子を見た。


そして小さく言う。


「無理はするな。」


ゼルクが目を見開く。


リオは続けた。


「この先、もっと意味の分からん話になる。」


「今のうちに逃げるなら止めない。」


サイラスが反射的に言う。


「今さら逃げられる空気じゃないでしょう。」


その返しに、リュメリアが吹き出した。


「わかってるじゃない。」


ラルラゴが短く言う。


「来るなら来い。」


「来ぬなら去れ。」


それだけだった。


選べ、と。


四天槍とゼルクたちは顔を見合わせる。


だが、結論はもう出ていた。


ゼルクが一歩前に出る。


「行く。」


四天槍の女剣士も続く。


「私も。」


大男も、もう1人も頷いた。


サイラスは最後にため息をついた。


「……付き合いますよ。」


「ここまで来たら。」


ヴァルが満足そうに笑う。


「よし。」


「決まりだ。」


ノアがふわりと浮いて、彼らの方を一瞥する。


「城の中では。」


「静かにお願いします。」


サイラスが思わず言う。


「今さら静かにしろと言われても、心臓がうるさいんですが。」


リュメリアがまた笑う。


「ほんと、いい反応するわね。」


こうして一行は、砕けた広場を後にした。


城門を抜け。


長い回廊を進む。


兵士たちは、道の端に膝をつき、頭を下げる。


その中心を、当然のように歩くラルラゴ。


軽く手を振りながらついていくヴァル。


静かな顔で前を向くリュメリア。


肩にノアを乗せたリオ。


そして、その後ろを、場違いなほど緊張した足取りでついていく四天槍とゼルクたち。


サイラスが小声で言う。


「団長。」


「今さらですが。」


「俺たち、とんでもない所に足を踏み入れてませんか。」


ゼルクも小声で返す。


「……もう遅い。」


銀髪の女剣士が囁く。


「王でも頭を下げる部屋、って言ってたわよね。」


大男が眉をしかめる。


「心臓が保つ気がしない。」


前を歩いていたヴァルが、振り返りもせずに笑う。


「安心しろ。」


「最初は誰だってそうだ。」


サイラスが即座に返す。


「最初の人間なんて、そう何人もいないでしょう。」


ようやく、最上階へたどり着く。


幾重もの封印扉。


重厚な黒い扉。


それがゆっくりと開かれる。


ギルドマスタールーム。


会議室であり、執務室であり、そしてアストラ・エクリプスの中核でもある部屋。


高い天井。


壁一面に刻まれた魔術紋。


巨大な円卓。


奥には一段高い席があり、そこだけ椅子の造りが違う。


玉座というほど仰々しくはない。


だが、誰が見てもわかる。


そこが、この部屋の主の席だった。


部屋に入った瞬間、四天槍も、ゼルクも、サイラスも、無意識に息を呑んだ。


ゼルクが低く呟く。


「……これが。」


サイラスも目を細める。


「王城の謁見の間より重いな。」


先導していたリュメリアが、振り返りもせずに言う。


「当然でしょ。」


「王が頭を下げる相手が座る部屋なんだから。」


ヴァルが酒瓶を揺らしながら笑う。


「昔はもうちょい散らかってたんだがな。」


リュメリアが即座に返す。


「それはあんたが片付けないから。」


ラルラゴは何も言わず、奥へ進む。


ノアは小さな魔虫の姿のまま、ふわりとリオの肩で光っていた。


リオは部屋の中央で、少しだけ足を止めた。


視線が、自然と奥の席へ向く。


リュメリアがようやく振り返る。


「座りなよ。」


リオが目を細める。


「……どこに。」


リュメリアは当然のように奥を指した。


「そこ。」


ヴァルも肩をすくめる。


「何を今さら。」


「お前の席だ。」

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