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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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71/119

空気が裂けた。

リオの姿は、もう誰の目にも映っていなかった。


ただ一つ。


石畳の上に、遅れて衝撃だけが走る。


バンッ!!


四天槍の1人が息を呑む。


「な……っ」


絶騎士団幹部サイラスが目を見開く。


「見えない……!」


ゼルクも低く呟く。


「速い、なんてもんじゃない。」


「最初から消えているようにしか見えん。」


リュメリアは腕を組んだまま、目だけを細めていた。


「……やっぱり。」


「変わってる。」


ヴァルは酒瓶を口元まで持っていき、笑う。


「変わってなきゃ困る。」


「そうだろ、リオ。」


その瞬間。


ラルラゴの眼前に、リオが現れる。


剣はすでに振り抜かれていた。


一切の予備動作がない。


踏み込みも。


構えも。


呼吸の継ぎ目も見えない。


ただ、斬撃だけがそこにあった。


シュッ――


四天槍の女剣士が叫ぶ。


「入った!」


だが。


入らない。


リオの剣が、ラルラゴの首元へ届く寸前。


ぴたり、と止まっていた。


いや。


止められていた。


ラルラゴは、二本の指で剣を挟んでいた。


ただそれだけだった。


静寂。


風すら止まる。


リオの瞳がわずかに揺れる。


「……っ。」


ラルラゴは動かない。


二本の指で剣を受けたまま、低く言う。


「速い。」


「だが。」


ほんの少しだけ目を細める。


「軽い。」


次の瞬間。


ラルラゴの指先が、ほんのわずかに動いた。


それだけで。


ドンッ!!!


リオの体が弾かれる。


後方へ一直線。


石畳を削りながら滑っていく。


火花。


土煙。


だがリオは、片膝をついただけで止まった。


四天槍の大男が呻く。


「……おい。」


「今ので、立つのか。」


サイラスが低く言う。


「普通なら、腕どころか上半身ごと持っていかれている。」


ゼルクの額に汗がにじむ。


「ただ弾いただけだぞ……」


ノアの異結界が、わずかに軋んだ。


ミシ……


ノアが静かに目を伏せる。


「……強い。」


ヴァルが笑う。


「当たり前だ。」


「ラルラゴだぞ。」


リオはゆっくり立ち上がった。


口元を拭う。


うっすらと血がついている。


だが、その表情はむしろ落ち着いていた。


「……なるほど。」


ラルラゴが問い返す。


「どうした。」


リオは剣を持ち直す。


「最初の一太刀で分かった。」


「まだ遠い。」


リュメリアの背筋に、ぞくりとしたものが走る。


「今ので。」


「そこまで見るの……?」


ヴァルの口元から笑みが消えた。


「……ほんとに戻ってきたな。」


ラルラゴは、初めてほんの少しだけ口元を動かした。


笑みにも見えた。


「そうだ。」


「それを知るための一太刀だ。」


リオは構えを変える。


先ほどとは違う。


剣先が少し下がり、重心が深く落ちる。


肩の力が抜ける。


けれど隙はない。


四天槍の女剣士が息を呑む。


「構えが……変わった。」


ゼルクが低く言う。


「今の一瞬で、組み替えたのか。」


サイラスが目を細める。


「受けて、崩れて、立って、もう次に入ってる。」


「人間の戦闘の切り替えじゃない。」


ヴァルが酒瓶を軽く振る。


「そういうところは昔からだ。」


「一回で覚える。」


「二回目で奪う。」


ラルラゴは一歩だけ前に出た。


石畳が沈む。


ゴン……


広場全体が揺れる。


兵士たちの顔色が変わる。


「ま、まだ……」


「まだ本気じゃなかったのか……?」


リュメリアが淡々と答える。


「ええ。」


「今までは、ただ触っただけ。」


「ここからが手合わせよ。」


その時だった。


リオが、ふっと笑った。


小さく。


だが、確かに。


ラルラゴの目が細くなる。


「何がおかしい。」


リオは答える。


「いや。」


「少し安心した。」


「お前がちゃんとラルラゴで。」


一拍遅れて、ヴァルが吹き出した。


「ははっ!」


「言うようになったな、おい!」


リュメリアも口元を押さえる。


「なにそれ。」


「再会して最初に確認することが、それ?」


ノアだけは、少し涙ぐんでいた。


それが嬉しかったからだ。


ラルラゴは、わずかに息を吐く。


「減らず口も戻ったか。」


リオは肩を回した。


「戻ったんじゃない。」


「持ってきた。」


ヴァルが笑う。


「それもそうか。」


リオはラルラゴを見て言う。


「思ったより、元気そうで何よりだ。」


今度はヴァルが腹を抱えて笑った。


「はははははっ!!」


「聞いたか!」


「お前、今、ラルラゴに“元気そう”って言ったぞ!」


リュメリアも堪えきれずに笑う。


「だめ。」


「ほんとに面白い……」


ラルラゴだけは無表情のまま、低く言う。


「なら。」


「次は、もう少し元気を見せてやる。」


その瞬間。


ラルラゴの姿が消えた。


ゼルクが目を剥く。


「消え――」


言い終わる前に。


リオの後ろに、ラルラゴが立っている。


拳も。


剣もない。


ただ右手を振り下ろすだけ。


リオが振り返る。


遅い。


いや、間に合わないはずだった。


だが。


カンッ!!!


火花が散る。


リオの剣が、ギリギリでその手刀を受けていた。


四天槍全員が息を呑む。


「受けた……!」


「今のを!?」


だが受けただけでは終わらない。


リオの足元の石畳が、放射状に砕けた。


バギィッ!!!


地面が沈む。


リオの口から血が飛ぶ。


それでも、膝はつかない。


ノアの異結界が大きく軋む。


ギギギギ……!


ノアが羽を広げる。


「結界、強化。」


白金の光がさらに重なる。


ラルラゴの瞳が、わずかに開く。


「……ほう。」


リオは歯を食いしばる。


「っ……!」


腕が痺れる。


全身の骨が悲鳴を上げる。


だが。


心だけは、妙に静かだった。


目の前の一手。


重さ。


癖。


落ち方。


それだけを見ている。


リオが低く言う。


「……見えた。」


ラルラゴが問い返す。


「何がだ。」


リオは血を吐きながら笑う。


「お前の手癖。」


ヴァルが笑いを止めた。


リュメリアの目が変わる。


ゼルクが震える声で呟く。


「……今の一撃で。」


「そこまで読んだのか。」


サイラスが乾いた声を漏らす。


「冗談だろ……」


リオは剣を押し返す。


ほんの数ミリ。


だが確かに、ラルラゴの手が後ろへ動いた。


それを見た瞬間。


広場の空気が、変わった。


ヴァルが低く笑う。


「いい。」


「それでこそだ。」


リュメリアの背筋には、鳥肌が立っていた。


「……やっぱり。」


「あなた、リオだ。」


ラルラゴは静かに答える。


「そうか。」


ほんの一瞬だけ。


その口元が上がる。


「なら。」


「もう少し、付き合え。」


風が爆発した。


二人の姿が、同時に消える。


広場の中心が揺らぐ。


結界の内側から、音だけが遅れて弾けた。

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