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外れスキルの【停止時能力アップ】実は世界最強でした  作者: 滝本りお


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5年と800年のあいだ

風は止んでいた。


城門前の広場。


兵士たちは誰一人、声を出せなかった。


穣天使の姿のノア。

ラルラゴ。

ヴァル。

リュメリア。

そして、剣を抜いたまま静かに立つリオ。


空気が張り詰めている。


リオは剣を下ろさない。


だがラルラゴもまだ動かない。


視線だけが交差していた。


最初に口を開いたのは、リオだった。


「……一つ、確認したい。」


その声は落ち着いていた。


十八の顔をしているのに、間合いも言葉も、完全に大人の剣士のものだった。


ヴァルが片眉を上げる。


「確認?」


リオは3人を見回す。


「俺が戻ってきたってことは――」


少し息を置く。


「お前たち、不老不死にならなくてよかったんじゃないのか?」


沈黙。


兵士たちは何のことか分からず、顔を見合わせる。


「不老不死……?」


「何を話してるんだ……?」


ヴァルが、ふっと笑った。


「ああ、なるほど。」


「そこを先に聞くか。」


リュメリアが小さく肩をすくめる。


「相変わらず鋭いわね。」


ラルラゴは黙ったまま、リオを見ている。


リオは続ける。


「天該の使者が言ったんだろ。」


「俺は800年後に戻るって。」


「でも、今はまだ5年しか経っていない。」


「なら、俺が戻った時点で、その先を越える必要はなくなったんじゃないか?」


その問いに、ヴァルは酒瓶を軽く振った。


からん、と乾いた音が鳴る。


「半分は正しい。」


「だが、半分は間違いだ。」


リオの眉が動く。


「どういう意味だ。」


そこで、リュメリアが一歩前に出た。


長い髪が風に揺れる。


そして少し呆れたように言う。


「私たちを誰だと思ってるの?」


兵士たちの間に緊張が走る。


リオは黙っている。


リュメリアはほんの少し笑った。


その目には誇りがあった。


「よく聞きなさい、リオ。」


「私たちは――」


そこで初めて、その名を口にする。


「アストラ・エクリプスよ。」


広場が静まり返る。


兵士の一人が呟く。


「アストラ……?」


「SSSギルドの…なんでここに…」


別の兵士が顔を青くする。

 

ヴァルが肩をすくめる。


「そうだ。」


「SSSパーティ、アストラ・エクリプス。」


「お前が消えてから5年。」


「まだ5年しか経っていない。」


リオはゆっくり頷く。


「そうだろうな。」


リュメリアが続ける。


「でもね。」


「それで全部終わり、って話じゃないの。」


「私たちは、あんたが戻るその時まで生きるって決めた。」


「だから魔術も、異能も、封術も、禁呪も、ありとあらゆる手段を試した。」


「結果――」


少し胸を張る。


「不老不死みたいになっちゃった。」


ヴァルが横から低く笑う。


「“みたい”で済ませるな。」


「だいぶ無茶苦茶だったぞ。」


リュメリアはさらっと言う。


「でも成功したでしょ?」


リオは少しだけ笑う。


「……相変わらずだな。」


その時だった。


ヴァルがふっと口元を上げる。


「だが、たしかに思うよな。」


「お前が戻ってきたなら、無駄だったんじゃないかって。」


リオが頷く。


「そういうことだ。」


そこで、今まで黙っていたラルラゴが低く言う。


「いや。」


短い一言。


全員の視線が向く。


ラルラゴはまっすぐリオを見る。


「それは違う。」


沈黙。


ラルラゴの声だけが、低く静かに落ちる。


「お前にとって。」


「ここは夢記録世界だ。」


「私たちにとっては現実だがな。」


リオの目が細くなる。


ラルラゴは続ける。


「お前はこれから。」


「この世界で800年生きる。」


兵士たちがざわつく。


「800年……!?」


「何を言っている……」


だが誰も口を挟めない。


リオの呼吸がわずかに止まる。


「……。」


ラルラゴが言う。


「つまり。」


「結果的に。」


「ずっと一緒にいられるということだ。」


沈黙。


風が吹く。


その意味が、ゆっくりと広場に落ちていく。


ヴァルが、先に笑った。


「ああ。」


「そういうことになるな。」


酒瓶を軽く持ち上げる。


「5年待っただけで済んだ。」


「しかもこれから先、800年も顔を見られる。」


「なかなか悪くない。」


リュメリアも、小さく笑う。


「むしろ得した気分。」


「800年後まで待つ覚悟だったんだもの。」


「それが五年で済んで、その先はちゃんと一緒にいられるなら――」


少し目を細める。


「悪くないどころか、最高じゃない。」


リオはしばらく黙っていた。


その顔には、夢世界で20年を生きた男の理解と、18歳の少年の混乱が同時にあった。


「……つまり。」


「俺は戻ってきたんじゃなくて。」


「途中から合流した、ってことか。」


ヴァルが笑う。


「そう言い換えてもいいな。」


リュメリアが頷く。


「私たちにとっては、そう。」


「おかえり、でもあるし。」


「ようやく来た、でもある。」


ノアが穣天使の姿のまま、静かに一歩前に出た。


その声は柔らかかった。


「私は。」


「待っていました。」


「ずっと。」


リオがノアを見る。


その一言の重さに、少しだけ目を伏せた。


ラルラゴが最後に言う。


「5年。」


「短かった。」


少し間を置く。


「だが。」


「これから800年ある。」


「文句はないな。」


リオはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ笑った。


「……長すぎる。」


ヴァルがすぐに返す。


「今さらだ。」


リュメリアが肩をすくめる。


「観念しなさい。」


「もう逃げられないわよ。」


兵士たちはもう、理解するのを諦め始めていた。


「頭が追いつかない……」


そして、ラルラゴが一歩前に出る。


石畳が、みしり、と鳴る。


広場の空気がまた変わる。


リオも、ゆっくりと剣を持ち直した。


ラルラゴが静かに言う。


「では。」


「始めるか。」


リオの目が細くなる。


「……何を。」


ラルラゴ。


「証明だ。」


ヴァルが口元を上げる。


「何を今更。だが、そう来るよな。」


リュメリアが目を細める。


「ただリオと久しぶりに手合わせしたいだけでしょ!」


ノアは静かに光る。


兵士たちは一斉に後退る。


誰もが、本能で分かっていた。


ここから先は。


人間の戦いではない。


リオは剣を構えた。


38歳の剣士の呼吸。


18歳の肉体。


夢の二十年と、現実の五年。


そして、これから始まる七百九十五年。


そのすべてを背負って、リオはラルラゴを見る。


「……いいだろう。」


「付き合ってやる。」


風が吹いた。


その瞬間。


世界が揺れた。

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