表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/148

早すぎる再会

夢記録世界。


草原の風は変わらず強かった。


だが、空気だけは明らかに変わっていた。


何かが来る。


リオはそれを感じていた。


城門の前で足を止める。


ノアはもういない。


穣天使の姿に戻り、城へ飛んでいったままだ。


リオは空を見上げる。


「……早いな。」


小さく笑う。


「いや。」


「早すぎる、か。」


門の上では見張りの兵がざわついていた。


「おい、あいつだ。」


「さっきの魔物を一撃で……」


「でも待て。」


「城の上で、今……」


言葉が止まる。


白金の光が見えた。


空の向こう。


城の上空を切り裂くように、三つの気配が動いている。


リオは目を細める。


「……三人。」


次の瞬間。


ドンッ


空気が鳴った。


城門の外の広場に、三つの影が降り立つ。


土煙。


風圧。


兵士たちが一斉に後ずさる。


「な、なんだ!?」


「何者だ!?」


土煙が晴れる。


そこに立っていたのは――


長い髪を揺らす女。


酒瓶を片手に持つ男。


そして、腕を組んだ巨体の男。


リオの瞳が揺れる。


「……。」


若い。


だが、間違えようがない。


リュメリア。


ヴァル。


ラルラゴ。


まだ五年しか経っていない時代の、SSSギルドの姿。


兵士の一人が震える声で言う。


「だ、誰だ……」


隣の兵士が青ざめる。


「黙れ。」


「あの紋章……」


「王でも頭を下げる連中だ。」


広場に重い沈黙が落ちた。


最初に口を開いたのは、リュメリアだった。


「……ほんとに?」


その声は震えていなかった。


だが、目だけが揺れていた。


リオはゆっくり息を吐く。


「……久しぶり。」


ヴァルが眉を上げる。


「おいおい。」


「いきなりそれか?」


「こっちは、五年前に消えた仲間に突然会わされてるんだぞ。」


リオは苦笑した。


「そっちの感覚だと、そうなるか。」


リュメリアが一歩前に出る。


じっとリオを見る。


頭から足先まで。


剣。


立ち方。


息遣い。


視線。


全部を観察している。


「……おかしい。」


「顔はリオ。」


「でも、違う。」


ヴァルが低く笑う。


「分かるか。」


リュメリアは答えない。


代わりに、静かに言った。


「あなた、何年生きたの?」


兵士たちがざわつく。


「な、何年って……」


「見た感じ十八、十九だぞ……」


リオは少し黙ってから答える。


「二十年。」


風が止まる。


リュメリアの目が見開く。


ヴァルの酒瓶を持つ手が止まる。


ラルラゴだけが黙っている。


リオは続ける。


「俺の感覚では、十八年と二十年。」


「戦争もした。」


「国も回った。」


「剣も、魔術も、二十年分使った。向こうでは38年生きた、現実世界では半年だけど。」


兵士の一人が呟く。


「……何を言ってる。」


ヴァルが言う。


「二十年?」


「お前が消えてから、まだ五年だぞ。」


リオは頷く。


「知ってる。」


「だから、おかしいんだ。」


リュメリアが問う。


「どこで過ごしたの。」


リオは空を見上げる。


「夢記録。」


その一言で、三人の目が変わる。


ヴァルが低く笑う。


「……はは。」


「なるほどな。」


リュメリアが小さく呟く。


「やっぱり。」


「時間が噛み合ってない。」


ラルラゴが、そこで初めて口を開いた。


低い声。


短い言葉。


「向こうの私たちはリオに…

八百年後のリオに無事に会えたのだな。」


リオの目が動く。


「……知ってるのか。」


ラルラゴは答えない。


ヴァルが代わりに言う。


「天該の使者が言ってたろ。」


「八百年後に戻る、って。」


「だが、夢記録を噛ませたなら……」


言葉を切る。


リュメリアが引き継ぐ。


「外の時間を飛び越える可能性はある。」


兵士たちは、もう何も理解できていなかった。


「は……?」


「八百年……?」


「夢……?」


ヴァルが兵士たちをちらりと見て、肩をすくめる。


「悪いが。」


「ここからは、お前らの頭じゃついてこれん。」


兵士たちが固まる。


リュメリアはまだリオを見ている。


「ねえ。」


「本当にリオなの?」


リオは少し笑った。


「それ、ノアにも言われると思った。」


「ノアはどこ?」


ラルラゴが答える。


「戻る。」


「すぐにな。」


その言葉と同時に。


空から白金の光が落ちてきた。


穣天使。


ノアだ。


兵士たちが一斉にひれ伏す。


「て、天使……!」


「穣天使様……!」


ノアは光をまとったまま、まっすぐリオの前に降り立つ。


そして。


本来の巨大な姿のまま。


少しだけ、頭を垂れた。


「……見つけました。」


「間違いなく、リオです。」


その声に、リュメリアが息を呑む。


ヴァルは苦く笑う。


「お前がそこまで言うなら、本物だな。」


ラルラゴは一歩、リオに近づいた。


広場の空気が凍る。


兵士たちは息もできない。


ラルラゴはリオの前で止まる。


そして、ただ一言。


「……証明しろ。」


リオの眉が動く。


「何を。」


「お前が。」


「本当にリオだということを。」


ヴァルが横から笑う。


「厳しいな、おい。」


リュメリアは静かに言う。


「当然よ。」


「顔が同じでも、魂まで同じとは限らない。」


ノアがすぐに口を開く。


「違います。」


「彼は、確かにリオです。」


ラルラゴはノアを見ず、リオだけを見ている。


「ならば。」


「剣を抜け。」


広場の空気が、一段冷えた。


ヴァルが酒瓶を軽く振る。


「始まるか。」


リュメリアは目を細める。


「……面白くなってきた。」


兵士たちは青ざめる。


「え、え?」


「ここでやるのか……?」


リオは静かに剣を抜いた。


スッ、と空気が裂ける。


その抜き方だけで、ヴァルの目が変わる。


「……。」


リュメリアも、息を止めた。


ラルラゴだけが、ほんのわずかに口元を動かした。


「その抜き方。」


短く、低く。


「……覚えているか。」


リオは剣を構えたまま答える。


「忘れるわけがない。」


その瞬間。


ヴァルの酒瓶が、手の中で止まる。


リュメリアの目が、大きく揺れる。


ラルラゴの瞳だけが、静かに細くなった。


風が止まる。


城壁の旗が揺れなくなる。


ノアが、静かに光る。


誰も喋らない。


だが。


全員が分かった。


何かが戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ