夢記録世界
闇だった。
音もない。
風もない。
ただ沈んでいる。
リオの意識は、深い水の底に落ちていくようだった。
最後に覚えているのは、羅螺蘭の間。
ラルラゴ。
そして。
額を弾かれた瞬間。
骨が砕けた感覚。
血が溢れた感覚。
そこから先は――
何もない。
そのとき。
頭の奥で声が響いた。
「夢記録世界 起動。」
リオの目が開いた。
青空だった。
眩しいほどの光。
風が強く吹いている。
草が波のように揺れている。
リオはゆっくり起き上がる。
「……生きてる?」
体を触る。
骨は折れていない。
血も出ていない。
完全な体だ。
だが。
違和感がある。
リオは立ち上がる。
そして周囲を見る。
地平線。
山。
森。
見たことのない巨大な空。
「……ここが。」
「夢記録の世界か。」
そのとき。
肩が光る。
小さな光。
ノアだ。
ふわふわ浮いている。
リオは笑う。
「……やっぱり来たか。」
ノアがぴこっと光る。
嬉しそうにくるくる回る。
リオは指で軽く撫でる。
「安心した。」
「一人じゃない。」
ノアが肩に乗る。
昔と同じ。
何も変わらない。
リオは空を見上げる。
「八百年……」
「長いな。」
そのとき。
地面が震えた。
ドン……
ドン……
遠く。
地平線の向こう。
巨大な影が歩いている。
リオは目を細める。
「あれは……」
山より大きい。
体高百メートルはある。
巨獣。
一歩歩くたびに大地が揺れる。
ノアが少し震える。
リオは剣を抜いた。
スッ。
剣の重さが手に馴染む。
二十年鍛えた感覚。
リオは肩を回す。
「……いい。」
「体は覚えてる。」
巨獣が咆哮する。
空気が震える。
風が吹き荒れる。
普通の人間なら、その場で気絶するほどの威圧。
だが。
リオは歩き出した。
ノアが肩で光る。
リオが呟く。
「八百年だ。」
「急ぐ必要はない。」
巨獣が突進する。
大地が割れる。
山のような足。
その瞬間。
リオの姿が消えた。
次の瞬間。
巨獣の首元。
剣が振られる。
一閃。
世界が静止する。
そして。
山のような首がゆっくり落ちた。
ドォォン……
大地が揺れる。
リオが地面に着地する。
ノアがくるくる回る。
リオは少し笑う。
「……なるほど。」
「この世界。」
「最初から本気だな。」
そのときだった。
空の上。
雲の奥。
巨大な影が動いた。
リオは目を細める。
「あれは……」
巨獣とは比べ物にならない存在。
まるで空そのものが生きているようだった。
「まだ始まったばかりだ。」
その瞬間。
頭の奥で声が響く。
「夢記録開始。」
「残り時間:八百年。」
リオは剣を肩に担ぐ。
そして歩き出した。
果てしない草原へ。
この世界で。
八百年が
静かに始まった。




