入団後、最初の戦場
朝霧が立ちこめていた。
地方騎士団の砦の前。
馬の鼻息。
鎧の擦れる音。
騎士たちが整列している。
その中に、リオの姿もあった。
まだ入団して数ヶ月。
だがすでに第二小隊の中心に近い位置に立っている。
ガルト隊長が大声で言う。
「全員聞け!」
「北の森で魔物の群れが確認された!」
騎士たちがざわつく。
「数はおよそ百!」
「放置すれば街を襲う!」
ガルトが剣を掲げた。
「今日が新人どもの初陣だ!」
「ビビるな!」
騎士たちが笑う。
「初陣だってよ。」
「生きて帰れたら酒だな。」
リオの隣の騎士が肩を叩く。
「新人。」
「震えてるか?」
リオは首を振る。
「……少しだけ。」
騎士は笑う。
「それでいい。」
「震えない奴は死ぬ。」
ガルトが叫ぶ。
「出発!」
騎士団が動き出す。
鉄の列が森へ向かう。
森の奥。
異様な気配が漂っていた。
腐った匂い。
地面に残る巨大な足跡。
ガルトが手を上げる。
「止まれ。」
騎士たちが止まる。
その時だった。
森の奥から。
低い唸り声。
ズズズ……
地面が揺れる。
若い騎士が呟く。
「……来る。」
次の瞬間。
木々が揺れた。
巨大な影。
魔物の群れだ。
狼型。
牙が長く、体は牛ほどある。
騎士が叫ぶ。
「グレイウルフだ!」
「多すぎる!」
ガルトが剣を抜く。
「隊列!」
「盾前!」
騎士たちが動く。
だが。
リオは少し前へ出た。
ガルトが怒鳴る。
「おい新人!」
「前に出るな!」
リオは静かに言う。
「……大丈夫です。」
次の瞬間。
魔物が突っ込んできた。
牙。
唸り声。
土煙。
だが。
一瞬だった。
シュッ。
一匹の首が落ちる。
騎士たちが固まる。
リオが立っている。
剣が一閃していた。
ガルトが呟く。
「……は?」
二匹目。
三匹目。
四匹目。
剣が流れる。
まるで水のように。
騎士が叫ぶ。
「速すぎる!」
魔物が襲う。
だがリオは止まらない。
一歩。
踏み込み。
剣。
一撃。
首が飛ぶ。
ガルトが叫ぶ。
「全員突撃!」
騎士団が動く。
だがすでに戦況は変わっていた。
魔物の群れが崩れていく。
騎士たちが驚く。
「新人が……」
「前線全部切り裂いてる!」
ガルトが笑う。
「ははは!」
「いいぞ新人!」
戦闘は数分で終わった。
魔物の死体が地面に転がる。
騎士たちが息を整える。
一人の騎士が呟く。
「……なんだよあいつ。」
ガルトがリオの肩を叩く。
「新人。」
「お前……」
「本当に新人か?」
リオは苦笑する。
「はい。」
「昨日までは普通の人でした。」
騎士たちが笑う。
その夜。
騎士団の宿舎。
リオの部屋。
小さな灯り。
リオはベッドに座っていた。
そして。
掌の上。
小さな光が揺れている。
ノアだ。
丸くて、柔らかくて、いつも通り小さい。
リオは優しく撫でる。
「……今日ね。」
ノアがぴこっと光る。
「初めて戦場に行ったんだ。」
ノアがふわふわ浮く。
リオは笑う。
「怖かったよ。」
「でも。」
「ちゃんと帰ってこれた。」
ノアがリオの頬にくっつく。
暖かい光。
リオは小さく言う。
「ノア。」
「君だけだ。」
「俺の家族。」
ノアが静かに光る。
リオはその光を見ながら言う。
「必ず強くなる。」
「絶対に。」
「みんなを守れるくらい。」
窓の外では、夜風が揺れていた。
こうして。
騎士リオの名は。
少しずつ。
世界に広がり始める。




