騎士団入団
王都から少し離れた地方都市。
石造りの城壁に囲まれたその街の中央に、地方騎士団の駐屯所があった。
訓練場では朝から金属の音が響いている。
剣がぶつかる音。
掛け声。
砂埃。
その門の前に、一人の青年が立っていた。
リオだ。
まだ若い。
だが、その目はすでにどこか静かだった。
門番が腕を組んで言う。
「入団希望か?」
リオは軽く頭を下げる。
「はい。」
門番はリオを上から下まで眺める。
「歳は?」
「十八です。」
門番は鼻を鳴らす。
「若いな。」
「ここは遊びじゃないぞ。」
リオは静かに答える。
「わかっています。」
門番は笑った。
「みんなそう言うんだ。」
その時、後ろから声が飛んできた。
「おい新人!」
振り向くと、大柄な男が歩いてくる。
鎧の肩章を見る限り、隊長格だ。
「試験受けに来たのか?」
リオは頷く。
「はい。」
男は剣を抜いた。
「じゃあさっそくやるか。」
周囲の騎士たちがニヤニヤしながら集まってくる。
「お、入団試験だ。」
「また新人か。」
「三分持てば合格だな。」
大柄な男が剣を肩に担ぐ。
「名前は?」
「リオです。」
「俺は第二小隊隊長、ガルトだ。」
男は地面に剣を突き立てた。
「簡単だ。」
「俺を三回触れたら合格。」
「無理なら帰れ。」
周囲が笑う。
「新人がガルト隊長に三回?」
「一回でも当たったら奇跡だぞ。」
リオは剣を抜いた。
ゆっくりと。
その動きに、何人かの騎士が眉を動かす。
「……お?」
ガルトが笑う。
「構えは悪くない。」
「だがな――」
「経験が違う。」
その瞬間。
ガルトが踏み込む。
剣が振り下ろされる。
だが。
次の瞬間。
ガルトの剣が止まっていた。
リオの剣が、喉元にある。
静寂。
騎士たちが固まる。
ガルトが瞬きをする。
「……今。」
「何した?」
リオは首を傾げる。
「避けただけです。」
騎士たちがざわつく。
「避けた?」
「いや今の速さ……」
ガルトは笑った。
「面白い。」
「もう一回だ。」
今度は本気の踏み込み。
剣が連続で振られる。
速い。
普通の新人なら、何も見えない。
だが。
カン。
ガルトの剣が弾かれる。
そのまま。
トン。
リオの剣が肩に触れる。
二回目。
沈黙。
ガルトが笑う。
「……三回だな。」
三度目。
ガルトは全力で突っ込む。
土が舞う。
剣が振り抜かれる。
だが。
気づいた時には。
リオの剣が背中に触れていた。
三回。
騎士たちがどよめく。
「おい……」
「今の見えたか?」
「新人じゃねえぞ。」
ガルトは大声で笑った。
「合格だ!」
騎士たちが拍手する。
「新人!」
「歓迎する!」
ガルトが言う。
「今日からお前は第二小隊だ。」
リオは頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
その夜。
騎士団の食堂。
リオは一人で食事をしていた。
だが、どこか遠くを見ている。
脳裏に浮かぶ。
小さな道場。
三人の子供。
カイル。
ルーク。
ナーシャ。
カイルが言う。
「先生!」
「俺、絶対騎士団長になります!」
ルークが言う。
「僕は魔術師になります!」
ナーシャが拳を握る。
「私は体術で強くなる!」
三人が笑う。
「先生より強くなりますから!」
リオは苦笑する。
「それは無理かな。」
カイルが叫ぶ。
「無理じゃない!」
「約束ですよ!」
リオは静かに呟く。
「……約束。」
その時。
胸元が少し光る。
小さな存在。
ノアだ。
リオが指で触れる。
「ノア。」
小さく光が揺れる。
リオは空を見上げる。
「元気かな。」
ヴァル。
あの森。
あの道場。
全部、遠い。
だが。
必ず戻る。
リオは静かに言う。
「待っててください。」
「必ず――」
「強くなって帰ります。」
その夜。
地方騎士団の新人リオの物語が始まった。




