森で発見された男
窓の外では、昼の光が揺れていた。
鳥の声。
遠くの街のざわめき。
何もかもが穏やかだった。
だがリオの胸の奥は、静かではなかった。
羅螺蘭の間。
巨大な影。
あの圧倒的な存在。
息。
ただの息で、体が吹き飛ばされた。
骨が砕ける音。
床に叩きつけられた衝撃。
そこまでは、はっきり覚えている。
夢じゃない。
あれは――現実だ。
リオは眉をひそめた。
「……おかしい。」
女性が振り向く。
「どうしたの?」
リオはゆっくり言う。
「俺……」
「確か……」
「死ぬはずだったんです。」
女性はきょとんとした顔をする。
「え?」
リオは自分の手を見つめる。
震えている。
「地下の……ダンジョンで……」
「とんでもない化け物に会って……」
「それで……」
言葉が止まる。
そこから先の記憶がない。
本来なら、死んでいるはずだ。
リオは顔を上げた。
「……誰か。」
「助けてくれたんですか?」
女性は少し考えてから言った。
「さあ。」
「あなたを見つけたのは猟師たちよ。」
「森で倒れてたって。」
リオの眉が寄る。
「森……?」
「ええ。」
「街外れの森。」
女性は首を傾げる。
「あなた、誰かと一緒だったんじゃないの?」
その言葉に、リオはすぐ反応する。
「……SSギルド。」
女性の表情が「ああ」という顔になる。
「その人たちなら、もういないわよ。」
リオの目が動く。
「……いない?」
女性はさらっと言った。
「二日前に出発したわ。」
「この世界の反対側。」
「イホクン超帝国。」
リオの顔が強張る。
「……え?」
女性は机の上の書類を整理しながら続ける。
「過去最大の討伐依頼だって。」
「異例の特別招集。」
「国を越えた大規模な討伐らしいわ。」
リオの思考が止まる。
「……討伐?」
女性は頷く。
「ええ。」
「SSギルドのご一行でしょ?」
「あなたと一緒に来てた人たち。」
リオの瞳が揺れる。
「……二日前?」
「そう。」
女性は軽く笑った。
「かなり急だったみたいよ。」
「国からの緊急依頼らしくて。」
リオの喉が乾く。
羅螺蘭の間。
第六階層。
自分を置いていったあの五人。
リオは小さく呟く。
「……は?」
女性は首をかしげる。
「どうしたの?」
だがリオは答えなかった。
胸の奥に、ゆっくりと冷たいものが広がっていく。




