第六階層 ―試練
ブラックガルドが低く唸る。
その声は、まるで岩を擦るような音だった。
リオは剣を握り直す。
「……でかいですね。」
ガルヴァンが後ろで笑う。
「新人。
最初に言っとくがな。」
リオはちらりと振り向く。
「はい?」
「そいつの甲殻、かなり硬い。
下手に叩くと剣が欠けるぞ。」
「え?」
ドレクスが肩をすくめる。
「まあ、やってみれば分かる。」
リオはため息をつく。
「もうちょっと早く教えてくれません?」
レオンが冷静に言う。
「右脚の付け根。」
「そこだけ装甲が薄い。」
リオは目を細めてブラックガルドを見る。
確かに。
甲殻の継ぎ目がある。
「……なるほど。」
リュメリアが後ろから声をかける。
「焦らないこと。
この階層の魔物は、最初の一撃で倒せる相手じゃないわ。」
リオは苦笑した。
「さっきから聞いてると、
この階層の魔物って全部そういう説明ですよね。」
ガルヴァンが笑う。
「だから“第六階層”なんだよ。」
その瞬間。
ブラックガルドが動いた。
ドォン!!
地面を蹴る。
巨体なのに、異様に速い。
リオの目が見開かれる。
「速っ……!」
巨大な牙が振り下ろされる。
リオは横へ飛ぶ。
ガン!!
牙が床に突き刺さる。
石が砕ける。
ガルヴァンが後ろで笑う。
「いい回避だ!」
ドレクスが腕を組む。
「だがまだ甘い。」
ブラックガルドが尾を振る。
ヒュン!!
空気が裂ける。
リオは剣で受けた。
カン!!
衝撃。
腕が痺れる。
「うわっ……!」
レオンが静かに言う。
「力はCランク魔物の倍以上だ。」
リオは距離を取りながら叫ぶ。
「倍以上って軽く言わないでください!」
ガルヴァンが楽しそうに笑う。
「ははは!
だが、まだ本気じゃないぞそいつ!」
ブラックガルドが低く唸る。
赤い目がリオを捉える。
そして再び突進。
ドォン!!
リオは踏み込んだ。
剣を振る。
ヒュン!!
甲殻に斬撃。
カン!!
弾かれる。
「やっぱ硬い!」
ドレクスが言う。
「だから言っただろ。」
リュメリアが少し前に出る。
「右脚よ。」
リオは体勢を低くする。
ブラックガルドが牙を振る。
リオは潜る。
そして。
ヒュン!!
剣が走る。
甲殻の継ぎ目。
ザシュッ。
ブラックガルドが吠える。
ギャァァ!!
ガルヴァンが目を細める。
「お。」
レオンが静かに言う。
「通った。」
ブラックガルドが怒り狂う。
巨体を振り回す。
通路の壁が砕ける。
ドレクスが笑う。
「いいぞ新人!」
「怒らせた!」
リオが叫ぶ。
「それ良くないですよね!?」
ガルヴァン
「いや、いい。」
リオ
「なんでですか!?」
ガルヴァンはニヤリと笑う。
「怒った魔物は単純になる。」
レオンが続ける。
「知能型ほど怒ると動きが荒くなる。」
リュメリアが補足する。
「つまり今のは正解。」
リオは息を吐いた。
「よかった……。」
ブラックガルドが再び突進。
だが。
動きが直線的になっている。
リオが踏み込む。
「さっきの場所……!」
ヒュン!!
二撃目。
ザシュッ。
ブラックガルドが膝をつく。
ガルヴァンが叫ぶ。
「今だ!」
リオが最後の一歩を踏み込む。
剣を振り抜く。
ヒュン!!
深い斬撃。
ブラックガルドが崩れる。
ドォォン。
静寂。
リオは肩で息をしていた。
「……倒した。」
ドレクスが近づく。
魔物の死体を足で転がす。
「新人。」
「はい……。」
「悪くない。」
ガルヴァンが笑う。
「いや、かなりいい。」
レオンも頷く。
「判断が速い。」
リオは苦笑した。
「皆さんが横で解説してくれたからですよ。」
リュメリアがくすっと笑う。
「それでも、普通はあそこまで動けないわ。」
カイゼルが最後に言った。
「進む。」
リオが振り向く。
「もうですか?」
「ここは入口に過ぎない。」
リオは少し苦笑した。
「第六階層って……
入口でこれなんですか。」
ガルヴァンが肩をすくめる。
「だから言ったろ。」
「まだ本物のボスも見てない。」
ドレクスが通路の奥を見る。
「そして。」
リュメリアが静かに続けた。
「この階層には、
“入ってはいけない部屋”がある。」
リオが聞き返す。
「入ってはいけない?」
レオンが低く言う。
「羅螺蘭の間。」
リオの足が止まる。
「……それ。」
「ヴァルも言ってました。」
ガルヴァンが笑う。
「だろうな。」
ドレクス
「この階層の奥にある。」
リュメリア
「絶対に入るなって言われたんでしょう?」
リオ
「はい。」
沈黙。
ガルヴァンがニヤリと笑う。
「つまり。」
ドレクス
「気になるってわけだ。」
リオ
「いや、普通に怖いですよ。」
リュメリアが軽く肩をすくめる。
「でも、このダンジョンってね。」
少し笑う。
「だいたい“入るな”って言われた場所ほど
何かあるのよ。」
リオはため息をついた。
「……嫌な予感しかしない。」
カイゼルが通路の奥を見ながら言った。
「行くぞ。」
第六階層。
そのさらに奥へ。
まだ誰も知らない。
その先に待っているものを。




