第四階層 ― 知能
第三階層の扉がゆっくり閉じる。
ゴゴン……。
静寂。
カイゼルは前方を見つめたまま、低い声で言った。
「ここからが第四階層だ。
この階層から先は、さっきまでの魔物とは性質が変わる。
力だけで突っ込んでくる連中ではない。頭を使う敵が出てくる。」
リオは少し緊張した顔で周囲を見渡す。
通路は広く、石の壁は黒く変色していた。
どこか、湿った空気が漂っている。
「……頭を使う、ですか。
魔物が戦術みたいなものを考えるんですか?」
レオンが肩越しに振り返る。
「そういう奴もいる。
この辺りの階層からは、群れの動きや位置取りを理解して戦う魔物が出てくるんだ。
新人の頃はこの階層で死ぬ冒険者も多い。」
ガルヴァンが大剣を肩に担ぎながら笑った。
「まあ安心しろ。
俺たちがいる限り、お前が食われることはない。
……少なくとも今日まではな。」
冗談なのか本気なのか分からない言い方だった。
リュメリアが静かに補足する。
「第四階層の魔物は、単体でも厄介だけれど、問題は“連携”よ。
人間の戦い方を真似る個体もいる。
油断して前に出ると、後ろから別の魔物が来る、そういう戦い方をするの。」
リオは思わず息を呑む。
「……それ、普通に軍隊みたいじゃないですか。」
ドレクスが鼻で笑った。
「そうだ。
だからここから先は、力自慢のバカほど死ぬ。」
カイゼルが手を軽く上げた。
「止まれ。」
全員の足が同時に止まる。
前方の闇。
何かがいる。
リオの肌が粟立った。
通路の奥に、影が三つ。
背の高い人型の魔物だった。
灰色の皮膚。
細い手足。
そして異様に長い指。
レオンが小さく呟く。
「……グレイシーカー。」
リオが聞き返す。
「グレイシーカー……?」
リュメリアが説明する。
「第四階層の知能型魔物よ。
魔力を探知して獲物を見つける。
視界だけで戦う魔物よりずっと厄介。」
その時。
グレイシーカーの一体が、ゆっくりと首を傾けた。
まるで。
観察している。
リオを。
ガルヴァンが低く笑う。
「ほらな。
もうこっちを見てる。」
リオは剣を構えた。
だが次の瞬間。
グレイシーカーは一斉に散開した。
左右の壁に飛び、天井に張り付く。
リオの目が見開かれる。
「……えっ!?」
レオンが短く言った。
「来るぞ。
新人、右を見るな。左に来る。」
言われた瞬間。
影が落ちた。
ヒュン!!
上から一体が落下する。
リオは反射で体を回した。
剣が走る。
カン!!
火花。
グレイシーカーの爪を弾く。
だが。
背後。
もう一体。
リオが振り返る前に。
ドン!!
ドレクスの拳が魔物を叩き潰す。
「後ろが空いてるぞ新人!」
「す、すみません!」
ガルヴァンが笑いながら突撃する。
「いい動きだ!
だがこの階層の連中はそう簡単には終わらねぇ!」
三体目。
壁を蹴って突進。
リュメリアの魔術が走る。
青い魔力の鎖。
グレイシーカーの体を絡め取る。
「今よ!」
レオンが踏み込む。
鋭い一閃。
ヒュン。
魔物の体が二つに割れる。
静寂。
戦闘終了。
リオは大きく息を吐いた。
「……今の、完全に人間の戦い方でしたね。」
レオンが剣を払う。
「だから言っただろう。
ここから先は“戦い”になる。」
ガルヴァンがリオをじっと見る。
「新人。
さっきの反応、悪くなかったな。
普通のEランクなら最初の一撃で首が飛んでる。」
リュメリアも腕を組みながら観察している。
「それに……少し妙ね。
あなた、初めて知能型魔物と戦ったとは思えない動きだった。」
リオは苦笑した。
「そんなことないですよ。
ただ……何となく、動きが読めただけです。」
ドレクスが眉をひそめる。
「何となく、か。」
カイゼルが静かに言う。
「それだ。」
全員が彼を見る。
「この少年の異常さはそこにある。」
リオは首を傾げる。
「え?」
カイゼルはそれ以上説明しなかった。
ただ前を指差す。
「進む。
第四階層はまだ入口に過ぎない。
この奥に、階層の主がいる。」
リオの胸が少し高鳴る。
だがその奥で。
SSギルドの空気は変わっていた。
レオンが小さく言う。
「……確かに妙だな。」
リュメリアが頷く。
「ええ。
この子、強いというより……」
ガルヴァンが言葉を続けた。
「戦いに慣れすぎてる。」
カイゼルが最後に呟く。
「あるいは――」
ほんのわずかな沈黙。
「生まれつき、戦う側の存在か。」




