老人の酒と嘘
夜。
カザールの酒場。
いつもの灯り。
いつもの匂い。
肉と酒。
レオンは同じ席。
もう数日。
観察は続いている。
結論は三つ。
一つ。
リオの成長速度は異常。
二つ。
ヴァルはただの老人ではない。
三つ。
天階Ⅳ討伐。
レオンは酒を飲みながら考える。
(魔神をやったのは)
(ヴァル……だよな?)
しかし確信はない。
あの老人の剣は見ていない。
証拠がない。
そこへ。
扉が開く。
ヴァル。
いつもの外套。
いつもの剣。
マスター
「おう。」
ヴァル
「酒だ。」
マスター
「最近元気だな。」
ヴァル
「弟子のおかげだ。」
レオンが笑う。
「またその話ですか。」
ヴァル
「いいじゃないか。」
席に座る。
酒が来る。
三人。
少し笑い。
少し世間話。
時間が過ぎる。
酒が進む。
ヴァルの頬が少し赤い。
マスター
「今日はよく飲むな。」
ヴァル
「いい日だからな。」
レオン
「何かあったんですか。」
ヴァルは酒を見つめる。
少し黙る。
そして言う。
「あのな。」
マスター
「ん?」
ヴァル
「魔人。」
レオンの耳が動く。
ヴァル
「倒したのは」
「私だ。」
一瞬の沈黙。
そして
マスターが笑う。
「ははは!」
「また始まった!」
ヴァル
「本当だ。」
マスター
「何回目だその話!」
「お前の武勇伝は!」
ヴァル
「違う。」
マスター
「天階Ⅳだぞ?」
ヴァル
「知ってる。」
マスター
「町が消えるやつだ。」
ヴァル
「そうだ。」
マスター
「お前一人で?」
ヴァルは首を振る。
「いや。」
酒を飲む。
「無理だ。」
「私は老人だ。」
「一人じゃ無理だった。」
マスター
「だろ?」
ヴァル
「たまたまだ。」
レオン
「たまたま?」
ヴァル
「技が出た。」
レオン
「技?」
ヴァル
「殲斬り。」
酒場が静かになる。
マスター
「……お前」
「そんな技あったか?」
ヴァル
「滅多に出ない。」
「たまたまだ。」
レオンは黙って聞いている。
ヴァルは続ける。
「だがな」
「それだけじゃ無理だった。」
マスター
「何が?」
ヴァル
「リオだ。」
レオンの目が止まる。
ヴァル
「あいつがいた。」
マスター
「Eランクだぞ。」
ヴァル
「そうだ。」
「だがな」
「恐怖の中で」
「覚醒する奴がいる。」
酒を飲む。
「リオがそうだった。」
レオン
「何をしたんです。」
ヴァルは少し笑う。
「よく覚えてない。」
「夢中だった。」
「だが」
「確かに」
「あいつは戦ってた。」
少し間。
ヴァル
「倒したのは」
「私とリオだ。」
マスター
「おいおい。」
「盛りすぎだろ。」
ヴァル
「盛ってない。」
レオン
「つまり」
「リオは」
ヴァル
「覚醒した。」
酒を飲む。
「だから言ってる。」
「騎士団長くらいにはなる。」
マスター
「またそれか。」
ヴァル
「いや」
少し笑う。
「それ以上かもな。」
レオンは酒を飲む。
頭の中で
観察。
数日。
修行。
成長速度。
全部が繋がる。
(なるほど)
(そういうことか)
(老人の剣)
(殲斬り)
(そして)
(覚醒した弟子)
レオンは静かに頷く。
「納得しました。」
ヴァル
「そうか?」
レオン
「はい。」
マスターはまだ笑っている。
「酔っぱらいの武勇伝だ。」
ヴァルは笑う。
「そう思うか?」
レオンは酒を置く。
「面白い話でした。」
その目はもう
完全に変わっている。
レオンの中で
一つの結論が固まる。
危険な芽。
Eランク冒険者。
リオ。
レオンは静かに立つ。
「今日はこれで。」
ヴァル
「また飲もう。」
レオン
「ええ。」
酒場を出る。
夜風。
星空。
レオンは小さく呟く。
「報告だ。」




