静かな監視者
聖王国エルディア
地方都市カザール。
昼下がり。
城門。
商人の荷車が並び
兵士が検問をしている。
そこへ
一人の男が歩いてくる。
黒い外套。
軽い荷物。
剣は一本。
顔は普通。
特徴がない。
兵士
「止まれ。」
男は足を止める。
兵士
「名前。」
男
「レオン。」
兵士
「職業。」
男
「冒険者。」
兵士
「ランク。」
男はギルドカードを出す。
兵士が見る。
Bランク。
兵士
「目的。」
レオン
「依頼。」
兵士はカードを返す。
「通れ。」
男は軽く頷く。
門をくぐる。
その瞬間
男の目の奥の光が変わる。
SSギルド
アストラル・クラウン。
監視者。
本名
レオン・ヴァルディア。
任務は一つ。
Eランク冒険者
リオの観察。
町の中心。
冒険者ギルド。
レオンは扉を押す。
中は騒がしい。
酒。
笑い声。
剣の音。
典型的な冒険者ギルド。
レオンはカウンターへ歩く。
受付主任
ミレイナ・ルクシア。
「いらっしゃいませ。」
レオン
「依頼を。」
ミレイナ
「ランクカードお願いします。」
レオンが差し出す。
ミレイナの目が少し動く。
「Bランクですね。」
レオン
「短期滞在だ。」
ミレイナ
「西の森の討伐依頼があります。」
レオン
「それでいい。」
ミレイナ
「最近少し騒がしいのでお気をつけください。」
レオン
「何が?」
ミレイナ
「天階Ⅳが出たので。」
レオンはわざと驚いた顔をする。
「ほう。」
ミレイナ
「もう消えましたけど。」
レオン
「倒された?」
ミレイナ
「そうみたいです。」
レオン
「誰が?」
ミレイナは肩をすくめる。
「わかりません。」
「この町には時々」
「妙な人がいますから。」
レオン
「妙?」
ミレイナ
「例えば」
少し考える。
「Eランクなのに」
「危ない場所にばかりいる人。」
レオンの指がわずかに止まる。
「名前は?」
ミレイナ
「リオ。」
レオンは小さく頷く。
「覚えておこう。」
依頼書を受け取る。
振り返る。
その瞬間
奥のテーブル。
リオが座っている。
パンを食べている。
ノアが肩にいる。
レオンの視線が止まる。
観察。
呼吸。
姿勢。
腕。
足。
剣。
レオンは心の中で呟く。
「……普通だ。」
リオはミレイナに言う。
「この依頼失敗したらまた謝ります。」
ミレイナ
「最初から失敗前提にしないでください。」
リオ
「いやでも…」
レオンは少し眉を動かす。
(これが)
(天階Ⅳの町の中心にいる少年?)
リオはパンを落とす。
「うわ!」
ノアが慌てて拾う。
リオ
「ごめん!」
レオンは静かに考える。
(違うな)
(少なくとも今は)
その時。
ギルドの扉が開く。
ゆっくり入ってくる老人。
曲がった背中。
古い外套。
一本の剣。
ヴァル・グレン。
レオンの瞳が一瞬だけ鋭くなる。
ヴァルはリオの横に座る。
リオ
「ヴァルさん!」
ヴァル
「昼飯か。」
リオ
「はい!」
レオンはその光景を見ている。
水のように静かな観察。
そして思う。
(老人)
(この男だな)
レオンは依頼書を折る。
(まずは)
(町の地形を覚える)
(森)
(川)
(修行場所)
静かに席を立つ。
リオはまだパンを食べている。
レオンは心の中で呟く。
(芽か)
(それとも)
(偶然か)
扉を開く。
外の光。
任務は始まった。




