観測者の水晶
中央大陸
北方都市。
黒い塔。
塔の最上階。
窓はない。
円形の部屋。
中央に置かれているのは
巨大な水晶球。
淡く脈動している。
静寂。
フードの男がゆっくりと目を開く。
オルディス・カナン。
アストラル・クラウン
観測者。
彼の瞳は普通ではない。
瞳孔の奥に
魔術陣が浮かんでいる。
水晶が揺れる。
光。
森。
川。
そして
一人の少年。
オルディスが呟く。
「……反応。」
背後の椅子に座る男が言う。
「何だ。」
低い声。
カイゼル・レオニード。
SSギルド
アストラル・クラウンの隊長。
オルディスは水晶から目を離さない。
「西の地方都市。」
「聖王国エルディア領。」
カイゼル
「理由は。」
オルディス
「天階Ⅳ。」
カイゼルの眉が動く。
「血刃の魔神グラディオスか。」
オルディス
「消えた。」
沈黙。
カイゼル
「討伐か。」
オルディス
「可能性が高い。」
カイゼル
「王国騎士団は?」
オルディス
「未出動。」
カイゼル
「ギルド?」
オルディス
「討伐記録なし。」
カイゼル
「つまり」
オルディス
「未知の戦力。」
カイゼルは椅子から立ち上がる。
ゆっくり水晶へ歩く。
水晶を見る。
そこに映るのは
森。
川。
少年。
木刀。
老剣士。
カイゼル
「……子供か?」
オルディス
「Eランク冒険者。」
カイゼル
「名前。」
水晶が淡く光る。
オルディス
「リオ。」
背後で椅子が軋む。
大剣の男が笑う。
ガルヴァン・ディアス。
「はは。」
「また若いのか。」
赤髪の女が言う。
リュメリア・ヴェイル。
「最近多いわね。」
巨漢の男。
ドレクス・バルガ。
「潰すか。」
カイゼルはまだ水晶を見ている。
「待て。」
オルディス
「?」
カイゼル
「もう一人いる。」
水晶。
老剣士。
ボロの外套。
曲がった背中。
カイゼル
「この老人は。」
オルディスが観測を深める。
水晶の光が強くなる。
しかし
突然
ノイズが走る。
水晶が揺れる。
オルディスの眉が動く。
「……見えない。」
カイゼル
「何?」
オルディス
「観測阻害。」
リュメリア
「老人?」
オルディス
「可能性がある。」
カイゼルは少し笑う。
「面白い。」
ガルヴァン
「で?」
「芽なのか?」
オルディスは再び水晶を見る。
リオ。
剣。
動き。
オルディス
「まだ小さい。」
「だが」
「伸びる。」
カイゼル
「どれくらい。」
オルディス
「……読めない。」
部屋の空気が少し変わる。
カイゼルの目が細くなる。
「未来が見えないのか?」
オルディス
「一部だけ。」
カイゼル
「珍しいな。」
オルディス
「はい。」
沈黙。
カイゼルは静かに言う。
「アストラル・クラウンの役目は。」
全員が言う。
「芽を刈る。」
カイゼル
「そうだ。」
水晶を見つめる。
「だが」
「すぐに刈る必要はない。」
ガルヴァン
「なぜだ?」
カイゼル
「芽は」
「少し伸びた方が」
「切りやすい。」
リュメリアが笑う。
「悪趣味。」
カイゼル
「観測を続けろ。」
オルディス
「了解。」
カイゼルは振り返る。
「その町へ」
「一人送る。」
ガルヴァン
「俺か?」
カイゼル
「違う。」
視線が一人に向く。
黒衣の男。
静かに立っている。
男が言う。
「任務か。」
カイゼル
「ああ。」
「監視だ。」
男が頷く。
「了解。」
オルディスが呟く。
「Eランク冒険者。」
水晶が光る。
「リオ。」
⸻
川沿い。
その頃。
リオ
「足が!」
「痛い!」
ヴァル
「まだ百歩だ。」
リオ
「修行ってこんな地味なんですか!?」
ヴァル
「剣は地味だ。」
リオ
「天階Ⅳよりきついです!」
ヴァルは少し笑う。
遠くの森を見る。
「さて。」
「そろそろ動き出す頃だな。」
リオ
「?」
ヴァル
「気にするな。」
「足を動かせ。」
世界は今
静かに
リオへ近づいている。




