西の森の消失事件
朝。
まだ太陽は高くない。
だが町はすでにざわついている。
市場の端。
パン屋の前。
人が集まっている。
男が言う。
「見たか?」
別の男が言う。
「見てない」
「でも聞いた」
女が言う。
「魔神が出たんでしょ?」
老人が言う。
「出た」
「でも消えた」
沈黙。
若い商人が言う。
「消えたって何だよ」
「魔神だぞ」
パン屋の主人が腕を組む。
「俺も聞いた」
「天階Ⅳだったらしい」
周囲がざわつく。
「天階Ⅳ!?」
「町が消えるやつじゃないか」
女が言う。
「でも…」
「誰が倒したの?」
誰も答えない。
⸻
ギルド
冒険者ギルド。
ギルドマスターが机に肘をついている。
目の前には魔術士。
魔力板には
反応ゼロ
魔術士が言う。
「間違いありません」
「魔神は完全消失です」
Bランクの女戦士が言う。
「死体は?」
魔術士が首を振る。
「魔力残滓のみ」
ギルドマスターが低く言う。
「戦闘の痕跡は」
魔術士が答える。
「……森が」
「切り裂かれています」
女戦士が眉をひそめる。
「魔神がやったのか?」
魔術士が言う。
「違います」
「魔神の魔力ではない」
沈黙。
ギルドマスターが言う。
「誰かが」
「やった」
女戦士が言う。
「誰だ」
ギルドマスターが呟く。
「それを今調べている」
⸻
城
執政官の部屋。
騎士団長が報告する。
「西の森の現場を確認」
「魔神の死体はなし」
執政官が言う。
「討伐痕跡は」
騎士団長が答える。
「あります」
「ただし」
少し止まる。
執政官が聞く。
「ただし?」
騎士団長が言う。
「……剣です」
執政官が顔を上げる。
「剣?」
騎士団長が頷く。
「巨大な斬撃」
「森が一直線に裂けています」
執政官が言う。
「騎士団か」
騎士団長が首を振る。
「違います」
「この威力」
「人間の剣ではない」
部屋が静まる。
⸻
SSギルド
遠くの塔。
水晶が光る。
魔術族の男が立っている。
背後に四人の影。
一人が言う。
「まだ分からないのか」
魔術族が言う。
「分かる」
全員が顔を上げる。
魔術族が水晶を触る。
「西の森」
「戦闘痕跡」
「剣」
沈黙。
別の男が言う。
「剣士か」
魔術族が小さく笑う。
「……いや」
「剣ではない」
部屋が静まる。
魔術族が言う。
「理だ」
誰も言葉を出さない。
魔術族が続ける。
「面白い」
「実に面白い」
そして小さく呟く。
「……見つけた」
⸻
川沿い
その頃。
リオはまだ混乱している。
「いやいやいや」
「今の何なんですか!」
ヴァルは川を見ている。
「修行だ」
リオが叫ぶ。
「違いますよね!?」
ヴァルが言う。
「違わん」
リオが頭を抱える。
「天階Ⅳですよ!?」
ヴァルが言う。
「そうだな」
リオが言う。
「町が消えるやつですよ!?」
ヴァルが答える。
「そうらしいな」
リオが言う。
「一振りで終わりましたよ!?」
ヴァルが少し考える。
「……少し強すぎたか」
リオが固まる。
「少し!?」
ヴァルが歩き出す。
「少年」
リオが振り向く。
ヴァルが言う。
「今日はここまでだ」
リオが言う。
「終わり!?」
ヴァルが言う。
「次は」
少し空を見る。
「本格的に始める」
リオの背筋が冷える。




