グラディオスが消えるまで〜一振り
空。
無数の魔刃が落ちてくる。
ヒュン
ヒュン
ヒュン
数百。
黒い刃。
森を裂きながら町へ向かう。
リオの喉が乾く。
「……無理だ」
「止められない」
頭に浮かぶ。
市場。
パン屋。
孤児院。
ナーシャ。
子供たち。
リオの手が震える。
「どうすれば…」
その隣で。
ヴァルは一歩前に出る。
ゆっくり。
散歩の途中のような足取りで。
木刀を持って。
リオが叫ぶ。
「ヴァルさん!!」
「来ます!!」
空の刃。
あと数秒。
町に届く。
ヴァルは空を見上げる。
魔刃の雨。
少し眉を上げる。
「ほう」
そして言う。
「派手だな」
リオが叫ぶ。
「そんな場合じゃ…!」
ヴァルは答えない。
木刀を軽く握る。
肩の力は抜けている。
背筋が伸びる。
2m近い身長。
「あれ…こんなに身長高かった…?」
次の瞬間。
空気が変わる。
森の音が消える。
風が止まる。
リオが息を飲む。
「……?」
ヴァルの背中。
その背中が
わずかに沈む。
そして。
木刀が動く。
横に。
ただそれだけ。
一振り。
音はない。
風もない。
だが。
空が裂ける。
落ちていた魔刃が
すべて
止まる。
ヒュン
ヒュン
ヒュ――
空中で
固まる。
リオの目が見開く。
「……え?」
次の瞬間。
魔刃が崩れる。
粉のように。
霧のように。
すべて消える。
その向こう。
血刃の魔神グラディオス。
四メートルの巨体。
その体に
無数の線が走る。
細い線。
細い線。
さらに線。
リオの瞳が震える。
「……あ」
グラディオスの腕が
千切れる。
ドゴン
肩が裂ける。
胴体が裂ける。
脚が裂ける。
肉も骨も
関係なく。
全身が千切れていく。
ズズズズズズ
黒い体が
細かく
裂ける。
千切れる。
崩れる。
地面に落ちる前に
魔力が霧となって散る。
天階Ⅳ。
血刃の魔神グラディオス。
その存在が
森の中で
粉のように
消えていく。
風が戻る。
鳥の声が戻る。
川の水が流れる。
リオは立ったまま
動けない。
口が開いたまま。
「……」
やっと声が出る。
「……今」
「何を…」
ヴァルは木刀を肩に乗せる。
魔神の残骸を一瞥する。
そして。
小さく笑う。
「ふむ」
肩を回す。
「やはり」
少し考えるように言う。
「慣れないことは」
木刀を見て。
「しないのに限るな」
リオが叫ぶ。
「えええええええ!?」
森に響く。
リオの声だけが。
ヴァルは振り返る。
そして言う。
静かに。
「勘違いするなよ、少年」
リオが固まる。
ヴァルは続ける。
「わたしは」
木刀を軽く振る。
「剣士ではない」
リオの目が丸くなる。
ヴァルは笑う。
「本職は魔術だ」
そして肩をすくめる。
「魔術の方が得意なのだよ」
少し歩き出す。
「魔術族だからな」
リオの脳が追いつかない。
後ろでは。
血刃の魔神グラディオス。
天階Ⅳ。
その残骸が
黒い霧となって
完全に消えていく。
町はまだ
何も知らない。
グラディオスが消えるまで4〜




