待っていた老人
町外れの川沿い。
大きな古木の下。
そこに立っていたのは
一人の老人だった。
少し曲がった背中。
古い外套。
腰には一本の剣。
だがその姿は、不思議と周囲の空気を支配していた。
リオはゆっくり歩み寄る。
心臓が速い。
声をかける勇気が出ない。
すると。
老人が先に口を開いた。
「遅かったな」
リオが固まる。
「え?」
老人――ヴァル・グレンは振り向く。
そして笑った。
「ようやく来たか」
「待っていたぞ」
リオ
「……え?」
ヴァル
「剣を教えてほしい」
「そう言っておったな」
リオは慌てて頷く。
「は、はい!」
ヴァルは川の流れを見ながら言う。
「来ると思っておった」
「だが」
ちらりと横目で見る。
「少し遅かったな」
リオは頭をかく。
「勇気がなくて……」
ヴァルは小さく笑う。
「弱い者はそういうものだ」
リオ
「すみません」
ヴァル
「謝るな」
そして振り向く。
その目が鋭くなる。
「来たのなら」
「試す」
リオ
「試す?」
ヴァルは川の上流を指差す。
「この先に洞穴がある」
「そこに魔物が棲みついた」
リオ
「倒すんですか?」
ヴァル
「そうだ」
少し間を置く。
「ただし条件がある」
指を一本立てる。
「剣を抜くな」
リオ
「……え?」
二本目。
「逃げるな」
三本目。
「そして」
「魔物を倒せ」
リオの思考が止まる。
「それ……」
「どうやるんですか?」
ヴァルは平然と答える。
「知らん」
「考えろ」
リオ
「えええ……」
ヴァルは少し笑う。
「心配するな」
「死ぬかもしれんが」
リオ
「心配します!」
ヴァルは肩をすくめる。
「その魔物」
「Eランクではない」
リオ
「!?」
ヴァル
「Cランク程度だ」
リオ
「無理です」
ヴァル
「そうかもしれんな」
しかし続ける。
「だが」
「守りたい者がいるのだろう?」
リオの脳裏に浮かぶ。
ナーシャ。
アルト。
レオル。
そして肩の上の魔虫。
ノア。
リオは拳を握る。
「……やります」
ヴァルは頷く。
「よし」
その時。
ヴァルの視線がノアに止まる。
小さな魔虫。
ヴァルの目がわずかに細くなる。
「……ほう」
リオ
「え?」
ヴァルは一歩近づく。
ノアをじっと見る。
ノアも見返す。
しばらく沈黙。
ヴァルが小さく呟く。
「奇妙な縁だ」
リオ
「え?」
ヴァルは話を切る。
「洞穴は上流三百歩」
「行け」
リオ
「はい」
歩き出す。
だが途中で止まる。
振り返る。
「……あの」
ヴァル
「なんだ」
リオ
「僕」
「本当に弱いです」
ヴァルは笑う。
「知っておる」
リオ
「でも」
「頑張ります」
ヴァルは木にもたれる。
「弱い者が」
「守るために戦う」
「それは嫌いではない」
そして手を振る。
「行け」
「試験だ」
リオは深呼吸する。
「……はい」
川沿いを歩き出す。
肩の上でノアが羽を震わせる。
リオが小さく言う。
「ノア」
「一緒に頑張ろう」
ノアが微かに光る。
その背中を
ヴァル・グレンは見ていた。
しばらく沈黙。
そして小さく笑う。
「……面白い」
空を見上げて呟く。
「ラルラゴ」
「お前の言う通りかもしれんな」
「この少年」
「ただのEランクではない」
川風が木を揺らす。
試験が始まった。




