弱い僕の、はじめての決意
広場の練習が終わり、
子供たちは帰っていった。
アルトは最後まで木剣を振りながら言う。
「明日もっと強くなるからな!」
レオルはため息をつく。
「それ毎日言ってる」
ナーシャは振り返って手を振る。
「また明日!」
「リオ!」
「忘れないでね!」
「泊まりに行く約束!」
僕は笑う。
「忘れないよ」
三人が角を曲がって見えなくなる。
広場には静けさが戻った。
ノアが肩で羽を震わせる。
僕は空を見上げる。
「……」
頭の中にナーシャの言葉が浮かぶ。
『毎日楽しい』
『幸せ』
『お兄ちゃんと妹みたいに』
胸の奥が少し痛くなる。
「……僕は」
小さく呟く。
「強くない」
Eランク。
外れスキル。
戦えば震える。
さっきのネオスライムだって
動けなかっただけだ。
「でも」
少し笑う。
「守りたいな」
アルト。
レオル。
ナーシャ。
あの三人。
「強くなって」
「もっと強い先生になって」
「この子たちを強くしたい」
ノアが肩で少し動く。
僕は言う。
「自分のためじゃない」
「周りのみんなのため」
「それなら」
「少しは勇気出せるかな」
頭に浮かぶ人物がいる。
町外れ。
川沿い。
いつも剣を振っている老人。
噂の老剣士。
「……」
僕はため息をつく。
「怖いな」
「すごく」
でも――
一歩だけ。
ほんの一歩だけ。
「……話を聞くだけ」
「それだけでも」
「一歩だよね」
ノアが羽を震わせる。
僕は笑う。
「よし」
「行こう」
夕方の街を抜けて
川へ向かう。
水の音が聞こえる。
川沿いの大きな木。
その下で――
老人が剣を振っていた。
古い外套。
少し曲がった背中。
ゆっくりとした剣。
僕は遠くで止まる。
「……」
心臓がうるさい。
帰ろうか。
やめようか。
そんな考えが何度も浮かぶ。
でも。
ナーシャの声が頭に響く。
『お兄ちゃんと妹みたいに』
僕は拳を握る。
「……よし」
一歩。
また一歩。
近づく。
老人はまだ剣を振っている。
僕はついに声を出す。
「……あの」
老人の剣が止まる。
ゆっくり振り向く。
鋭い目。
「……」
少し間があく。
僕は慌てて言う。
「す、すみません!」
「邪魔して!」
老人は黙っている。
僕は深呼吸する。
「えっと」
「僕」
「剣を教えてほしいんです」
老人の眉が少し動く。
僕は続ける。
「でも」
「弟子とかじゃなくて」
「ただ」
「話を聞くだけでも」
「いいんです」
老人はしばらく黙っていた。
川の音だけが流れる。
そして老人が言う。
「……ほう」
低い声。
「Eランク冒険者」
僕は驚く。
「え?」
老人が言う。
「リオ」
「だろう」
僕は固まる。
「な、なんで」
老人は小さく笑う。
「この街で」
「知らぬ者はおらん」
そして剣を肩に乗せる。
「それで」
僕を見る。
「なぜ」
「剣を学びたい」
僕は少し考えてから言う。
「……守りたい人がいるからです」
老人の目が少し変わる。
「自分のためではないのか」
僕は首を振る。
「違います」
「僕は弱いです」
「でも」
「大切な人のことを考えると」
「少しだけ」
「強くなれる気がするんです」
沈黙。
そして老人が言う。
「……ふむ」
少し笑う。
「面白い」
剣を下ろす。
「よかろう」
「まず」
老人が言う。
「話をしよう」
川の水が流れる。
その日。
Eランク冒険者リオの人生は
少しだけ
動き始めた。




