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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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仲間の厳しい愛がゆえに

第三区へ向かう坂道の途中。

風は高く、乾いていて、空の野郎どもの領域が近いことを肌が先に教えてくる。


リオとザルクスは、崖縁の通路を並んで歩いていた。


少し前まで、父と母の話をしていた。

古魔種。

聖人族。

ノア。

穣天使。

いきなり世界の根をひっくり返されるような話ばかりで、頭の中はまだ全然整理しきれていない。


リオが黙ったまま前を見ていると、ザルクスが横で急に言った。


「その前に」


「ん?」


「お前、光に関する属性というか、異能も持ってるんだよな」


リオの足が少しだけ止まる。


「……は?」


ザルクスは肩をすくめた。


「それが母親の、小さき得意分野っていうか」

「いや“小さき”って言ったけど、全然小さくねえんだけどな」

「むしろあれは頭おかしい側だ」


「いや待って」

リオが眉を寄せる。

「また急に何言ってるの」


「だから言ってんだろ」

ザルクスは笑う。

「俺でも、あの俺でもだぞ?」

「わけわかんないスキルや異能があるんだよ、お前の両親は」


「お前基準で言われても困るんだよ」


「困れ困れ」

ザルクスは面白そうに言った。

「次は思い出せ」

「母ちゃんを」


リオの顔が少し強張る。


「母親の能力を、引き出すんじゃない」

「思い出すんだ」


「……ん」

リオは目を細めた。

「思い出すも何も、知らん」


「だーかーらー」

ザルクスはわざとらしく伸ばした。

「さっき出しただろ」

「古魔種の一部の異能を」


そこで、指を一本立てる。


「圧真」


その二文字が、妙に重く落ちた。


リオの胸の奥が、かすかに反応する。


「それの今後に広がるのが――」

ザルクスはさらに指を折った。


「空獣」

「切突」


リオが足を止める。


「……え」


「だろ?」

と、ザルクス。


「知らない」

リオは即答した。

「何言ってるの、お前」


「今は知らなくていい」

「でも身体は知ってる」

「お前はすでに使いかけてる」


ザルクスはそこで、もう一方の手を軽く上げた。


「それから母ちゃんの方な」


今度は声の温度が、少しだけ変わった。


「聖櫃」

「虐光」

「脱魂」


三つの名が、風の中に沈む。


リオは、しばらく何も言えなかった。


分からない。

でも、完全に他人の言葉として聞こえない。

嫌な感じじゃない。

むしろ、思い出せそうで思い出せない時の、胸の奥のむず痒さに近い。


「……だけど」

ザルクスが笑う。

「わかるよな?」


「わかるわけねーだろ!!」


リオが思わず声を上げると、ザルクスは腹を抱えて笑った。


「だよなあ!」


「笑うな!」

「いやだって、お前のその顔おもしれえし」


ザルクスはまだ笑いながら言う。


「前にレインと接続した時を思い出せ」

「想いを、感覚を」

「一度レインの接続を受けた人間だけが分かる、“接続される側”の妙な感覚が残ってるはずだ」

「そこを詰めろ」


リオは黙る。


レイン。

あいつがこっそり自分に接続を試した時。

不完全だった。

でも確かに、あの時なにかが一度つながった。


その後、ダンジョンで剣を置いた瞬間に、父側の断片が噛み合った。

なら、母側も同じなのかもしれない。


「……うーん」


リオは眉間を押さえる。


「雑すぎるだろ、その説明」


「雑じゃねえよ」

「お前の頭がまだ足りてねえだけだ」


「今それ言う?」


「言う」


ザルクスは、少し前を見たあと、ぽんと手を打った。


「じゃあ、空の族に会う前に」

「地の……あいつらの手下でも片づけるついでに、力試しでもするか!」


「誰と?」


「お前が、だよ」

「いや相手だよ!!」


ちょうどその時だった。


坂道の先。

第三区の整備区画の中心で、何人もの人と魔人を指揮している女の姿が目に入る。


白銀に近い髪。

涼しい目。

整備図面を片手に、誰よりも静かに現場全体を支配している。


リュメリアだった。


「あれ、あいつら何してるんだ」

と、リュメリアが先に気づく。


ザルクスの口元が、にたりと歪む。


「ちょうどいいなー!」

「リュメリアがいるなー!」

「例の“あれ”よろしく!」


「……は?」

リュメリアの声が、一段低くなる。


リオも訳が分からず身構えた。


「待て」

「なんだその流れ」


リュメリアは図面を閉じ、ゆっくり二人の方へ歩いてくる。

目だけでザルクスを射抜く。


「説明しなさい」

「しないとここで沈めるわよ」


「いやあ、リオが母ちゃん側の方も少し触りたいって言ってな」

「言ってねえよ」

「顔が言ってた」


「便利だなその理屈!!」


リュメリアは一瞬だけリオを見た。

その視線だけで、だいたいを察したらしい。


「……なるほど」

「また面倒なことを思いついたのね」


「で、頼む」

ザルクスが軽く手を合わせる。

「例のあれ」


「嫌よ」

と、リュメリアは即答した。


「えー」

「えー、じゃないわよ」

「これ、第三区よ?」

「ようやく整備が落ち着いてきたところなのよ?」

「しかも今このタイミングで?」


ザルクスはにやにやしている。

リオは半分引いている。


リュメリアは二人を見比べたあと、盛大にため息をついた。


「……仮は返しなさいよ」

「いいだろ?」

「よくない」


そう言いながらも、もう断らない顔だった。


リュメリアは整備区画の外れ、まだ資材を置いていない広い空き地へ歩いていく。

そこで立ち止まり、振り返った。


「離れなさい」

「全部巻き込むわよ」


ザルクスがさっとリオの肩を掴んで下がる。


「お、素直だな」

「お前がリュメリア相手にだけちょっとだけ慎重なの怖いよ」


「ちょっとじゃねえ」

ザルクスは笑った。

「かなりだ」


リュメリアは、右手を軽く持ち上げた。


詠唱はない。


準備動作も、ほとんどない。


ただ、細く息を吐いて――


「……ふっ」


それだけだった。


次の瞬間、空気が反転した。


重い。

軽い。

遠い。

近い。


全部が一度に来る。


大地が鳴る。

第三区の整地された地面の上に、黒い円陣のような歪みが一瞬だけいくつも浮かび、その中心から“それら”が現れた。


獣。


だが普通の獣ではない。


一体一体の輪郭が、重力そのものを纏っているみたいに不安定だ。

黒銀の毛並みを持つ狼型。

甲殻に覆われた獅子型。

四本脚なのに、歩くたび脚の本数が増減して見える異形。

背に薄い輪を浮かべるもの。

首の周りだけ空間が歪んでいるもの。


その数、ざっと二十ではきかない。


リオが目を見開く。


「な……」

「なんだこれ」

「なんだこの数」


リュメリアは、冷えた顔でザルクスを見る。


「重転獣」

「仮は返せよ、ザルクス」


ザルクスが楽しそうに笑う。


「相変わらずえげつねえな」


「当然でしょう」

リュメリアは言い捨てた。

「この獣たち、あなたでも多少は面倒」

「ヴァルも、そしてラルラゴですら少しは手間取る」


リオが思わず振り向く。


「え?」


「そのタイミングでリオに出すなんて」

リュメリアの目が細くなる。

「責任は全部、ザルクスが取りなさいよ」


「もちろん」

ザルクスは笑った。

「死ぬ前に俺が出る」


「死ぬ前に、って言い方が怖いんだよ」


だが、リオの身体はもう前を向いていた。


目の前にいる重転獣たちは、ただの召喚獣じゃない。

リュメリアの《重支界》から生まれた、重力と支配の理が獣の形を取ったような存在。


父側の“圧真”では押す、沈める、断つ。

なら、母側の何かはどう出る。


光。

繋ぎ止める。

聖櫃。

虐光。

脱魂。


意味はまだ分からない。

でも、今ここで触れなければ、たぶん空の族へ行っても掴めない。


リュメリアが最後にひとことだけ置く。


「リオ」


「ん?」


「死ぬ気でやりなさい」

「でも死なないで」

「こっちは忙しいのよ」


ザルクスが吹き出す。


「ははっ」

「愛あるなあ」


「黙りなさい」


次の瞬間。


重転獣の一体が、音もなく消えた。


いや、消えたように見えただけだ。


もう、リオの目の前にいた。


空間が沈む。

地面が重くなる。

呼吸が一瞬だけ遅れる。


リオの中で、父側の感覚が先に反応する。


だが同時に、その奥で、まだ知らない“別の何か”が目を覚まし始めていた。


ザルクスが、後ろで笑う。


「さあ、思い出せよ」

「父ちゃんの方だけじゃねえ」

「母ちゃんの方もな」


第三区の仮設空地で、次の胸熱戦闘が火を噴いた。

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