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外れスキルの【停止時能力向上】実は世界最強でした〜夢記録に刻まれた800年の真実〜  作者: 滝本りお


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衝撃的事実をつらつらと

大聖堂の高い天井の下。

割れた長椅子の破片と、陥没した床の余韻が、まだ静かに残っていた。


グロウ=ザルハドの気配は、もうない。

だが、残された圧だけが、ここで何かが確かに起きたと告げていた。


リオは、自分の手を見ていた。


さっき使った“あれ”。

剣ではない。

けれど、自分のものだと分かる何か。


まだ名前も知らない。

理屈も、全部は掴めていない。

でも、もう感覚は残っている。


ザルクスが、その横でゆっくりと歩き出す。


「ちなみに今のは」

と、気楽な声で言った。

「土野郎どもな」


リオが顔を上げる。


「……は?」


ザルクスは、陥没した床の縁を靴先で軽く蹴った。


「俺と対立してる連中、三つあるって言っただろ」

「今のグロウみたいなのが、土野郎ども」

「あと一つは空野郎」

「もう一つは水野郎どもだ」


「いや、待て待て」

リオが眉を寄せる。

「土野郎、水野郎はまだ分かるとして、何その雑な分類」


「雑じゃねえよ」

ザルクスは笑った。

「本質だ」


「本質が雑なんだよ」


ザルクスは楽しそうに肩を揺らしたあと、ふっと横目でリオを見る。


「次、空野郎どもに会いに行くか?」


リオが一瞬、言葉を失う。


「……は?」


「だってよ」

ザルクスは本当に軽かった。

「まだお前、本来の力を全然引き出せてないだろ?」

「あんなグロウみたいな雑魚相手しても、しょうがない」


「雑魚!?」

リオが思わず声を上げる。

「いや、強かっただろ今の!」


「そりゃ多少はな」

ザルクスはあっさり言う。

「でも俺でも多少焦るくらいの相手じゃねえと、肩慣らしにもならん」


「基準が終わってるんだよ……」


「だからちょうどいい」

ザルクスはにっと笑う。

「喧嘩売りに行くか?」

「空の野郎どもに」


大聖堂の空気が、そこでまた少しだけ変わった。


いつもなら、リオはたぶん断っていた。

軽すぎる。

無茶すぎる。

ザルクスの誘いはだいたいろくでもない。


でも、今回は違った。


さっきの戦いで、確かに掴んだ。

自分の中に、まだ戻っていないものがある。

そして、それは今後の戦いの中でしか戻ってこない気がした。


それだけじゃない。


ヴァルより。

リュメリアより。

ノアより。

ザルクスより。

そしてラルラゴよりも――


強くなりたい。


リーダーとして、胸を張りたい。


ただ守られる中心じゃなくて。

並び立つ中心になりたい。


リオは、ゆっくりと息を吐いた。


「……行く」


ザルクスの口元が、一気に吊り上がる。


「いいねえ!」

「前のリオに戻ってきたじゃねーか!」


「前の俺知らないくせに言うな」


「知ってるから言ってんだよ」


ザルクスは、大聖堂の割れた長椅子の一つに腰を下ろした。


「安心しろ」

「流石にリオ一人に任せようとは思わない」

「やばい時は俺が出るから」


「笑いながら言うな」

「笑ってないとやってられねえだろ」

「その理屈で毎回押し切るのやめろ」


ザルクスは、くくっと笑ったあと、ふと話題を変えた。


「ところで」


「ん?」


「グロウとのやり合いで使った、あれ」

「何か分かるか?」


リオは、自分の掌を見る。


指先を少し開く。

さっきの感覚を探る。

空間をずらした時の、あの奇妙な手応え。

圧を落とした時の、骨の奥まで響く確信。


「……分からない」

と、正直に言う。

「でも、感覚は残ってる」

「こんどからは、たぶんいつでも出せると思う」


ザルクスが、そこで少しだけ目を細めた。


「だろうな」


「知ってるの?」


「だいたいはな」

「お前は、幼い頃から剣が好きだった」


リオが目を瞬く。


「そうなのか?」

「……あ、確かに」

「現実世界……あっちの世界でも好きだったな」


「だろ?」

ザルクスは笑う。

「で、剣を使う中で、お前は色んな異能を編み出しやがった」


そこで、指を二本立てる。


「魔聖に連なる親父の異能の一部と」

「聖人族の母ちゃんの異能の一部をな」

「ガキの頃から勝手に繋げて、勝手に支えてた」


リオの身体が、ぴたりと止まる。


「……ちょ、待って」


ザルクスは平然としている。


「何だ」


「今、なんて言った?」


「ん?」

「親父と母ちゃんの話」


「それ」

リオの声が低くなる。

「父と母を知ってるのか?」


ザルクスが、そこで初めて「あ」と言った顔をした。


「……あーーー」


「おい」


「いや」

ザルクスは頭をかいた。

「記憶ないっていうか、この世ではまだヒヨッコちゃんだったな」

「わりーわりー」


「わりーわりー、で済ませる話じゃないだろ!」


「事実だ」

ザルクスは悪びれもせずに言う。

「まずはそこから受け入れろ」


リオは完全に眉を寄せる。


「父親が何だって?」

「魔聖族?」

「は?」


ザルクスは、少しだけ首を振った。


「厳密には、古魔種だ」

「だがその中でもかなり希少な、魔聖に連なる異能を持った系統」

「今の分類で無理やり当てるなら、そういう言い方になる」


リオは何も言えない。


「ちなみに」

ザルクスは軽く続ける。

「とんでもなく強い」

「いや、もう笑うしかないくらいな」


「……なんだそれ」


「親父の方は古魔種としても希少性が高い」

「母ちゃんの方は聖人族だが」

「バケモンだ」

「ありゃもう、あれだ」

「魔神族すら恐れるえげつない聖人族だった」


「なんだって……」


リオの喉が、静かに鳴る。


知らない。

聞いたこともない。

でも、ザルクスが冗談で言っていないことだけは分かる。


「それで」

リオがやっと絞り出す。

「母さんは、何者なんだ」


ザルクスは、少しだけ天井を見上げた。


「お前の母ちゃんが」

「穣天使を作り上げて、その組織を取りまとめた」


リオの目が大きく開かれる。


「……え?」


「その中の一部が」


ザルクスは、そこでわざと少しだけ間を置いた。


「ノアだ」


沈黙。


リオは、その場で完全に止まった。


「な」


一拍。


「え」


ザルクスは、ものすごく楽しそうに笑っている。


「ノアはな」

「お前の母ちゃんに忠誠を誓ってる」

「だから息子であるお前にも、命を捧げるほどの忠誠を向けてる」


リオは、何か言い返そうと口を開きかける。

でも、声が出ない。


ノアの顔が浮かぶ。

いつもそばにいて、守ってくれて、やさしくて、でも時々妙に深い目をしていたノア。


「あれ、忠誠どころか」

ザルクスはにやりとした。

「愛してるぞ」


「は、それは今関係ないだろ!」


リオの声が、大聖堂に響いた。


ザルクスは腹を抱えて笑う。


「いやいや、関係あるだろ」

「だって、お前が何者かって話だぞ?」

「全部繋がってんだよ」


リオは額を押さえる。


「待ってくれ」

「情報量が多すぎる」

「親父が古魔種で」

「母さんが聖人族で」

「その母さんが穣天使作って」

「ノアがその一部って」

「何それ」

「俺、どういう立場なんだよ……」


「だから今まで何回も言ってただろ」

ザルクスは笑う。

「お前、普通じゃねえって」


「そこまで普通じゃないと思ってない!」


「じゃあ今日から思っとけ」


リオは大きく息を吐いた。


大聖堂の高い天井が、妙に遠く見える。

ついさっきまで分類不能の化け物とやり合っていたのに、今はそれ以上に頭が揺れていた。


ザルクスは、ひとしきり笑ったあと、少しだけ真面目な顔になる。


「まあ、全部はまだいい」

「今のお前に一気に飲ませても、消化しきれねえ」


「十分飲まされた気がするけど」

「まだ序の口」


「やめてくれ」


ザルクスは肩をすくめる。


「とにかく」

「お前は自分で思ってるより、ずっとやばい血と、やばい記録を背負ってる」

「だから、あれくらい使えて当然なんだよ」


リオは、自分の手をもう一度見る。


さっきグロウに対して使った力。

あれは偶然じゃない。

血と、記録と、過去の断片が、ようやく今の自分に追いつき始めている。


「……じゃあ」

と、リオが言う。

「なおさら行くしかないな」


ザルクスの口元が、また深く吊り上がる。


「空野郎どもに?」


「うん」

「もっと戻す」

「もっと強くなる」

「リーダーとして、胸を張りたい」


ザルクスは、しばらくその顔を見ていた。


それから、昔を知る者だけが浮かべられる笑みで言う。


「やっぱりお前は、それでいい」


大聖堂の外では、第三区の工事音がまだ続いている。

地上では町が育っている。

地下ではダンジョンが唸っている。

そして空の向こうにも、次の敵がいる。


リオは、大聖堂の扉の向こうを見た。


まだ知らないことだらけだ。

でも、知らないままで立ち止まっている気はもうなかった。


「……次は空か」


「そうだ」

ザルクスが立ち上がる。

「喧嘩売りに行こうぜ」


その一言に、リオは少しだけ笑った。


軽すぎる。

でも、今はそれくらいでちょうどいい。


次の戦いは、もう始まっている。

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