妹になりたい日
広場での剣の練習が終わるころ。
アルトはまだ木剣を振り回していた。
「もう一回だ!」
「さっきの構え!」
レオルが呆れた声を出す。
「アルト、それ三十回目」
「重心が前に出すぎ」
アルトはぶつぶつ言う。
「細かいんだよお前!」
ナーシャは笑っている。
僕は肩をすくめる。
「今日はここまで」
「体を休めるのも練習だからね」
アルトが不満そうに言う。
「えー!」
レオルはうなずく。
「確かに疲れてる」
その時、ナーシャが僕の袖を引いた。
「リオ」
「ん?」
「ちょっといい?」
「少しだけ」
僕はうなずく。
「いいよ」
ナーシャは神殿の壊れた柱の方へ歩く。
少し離れた場所。
風が静かに吹いている。
ナーシャはしばらく黙っていた。
そして小さく言う。
「ねえリオ」
「うん?」
「この街ってさ」
「孤児多いよね」
僕は少し笑う。
「そうだね」
この世界にはいろんな種族がいる。
人族。
聖人族。
魔術族。
魔神族。
魔王族。
怪神族。
魔聖族。
そしてこの世界は――
多くの政治と商業を
人族が握っている。
それが直接じゃなくても
いろんな歪みを生む。
その結果
孤児は多くなる。
ナーシャも。
アルトも。
レオルも。
ナーシャは地面を見ながら言う。
「私さ」
「孤児院に来たとき」
「何もできなかったんだ」
「取り柄もないし」
「強くもない」
少し笑う。
「ただの子供」
僕は静かに聞いている。
ナーシャが続ける。
「でもさ」
「リオが剣教えてくれるでしょ」
「毎日」
「優しく」
僕は頭をかく。
「まあ、好きでやってるだけだよ」
ナーシャは首を振る。
「違うよ」
「嬉しいんだ」
「すごく」
少し照れて言う。
「毎日楽しい」
「幸せ」
僕は少し驚く。
ナーシャは笑う。
「孤児院の世話役の人も優しい」
「他の孤児院の子も」
「みんな同じ気持ち」
「だから絆があるの」
風が吹く。
ノアが肩で羽を震わせた。
ナーシャが急に言う。
「でも最近ね」
「変なこと言われる」
「変なこと?」
ナーシャはアルトの真似をする。
「おい!ナーシャ!」
「今ズルしただろ!」
僕は少し笑う。
今度はレオルの真似。
「剣使ってないよね」
「手使った」
「足も」
ナーシャは困った顔になる。
「でも私」
「何のことかわからないの」
「ズルしてないのに」
僕は少し考える。
確かにナーシャの動きは
少し独特だ。
相手の力を流す。
体を捌く。
でも本人は気づいていない。
僕は言う。
「きっと体の使い方が上手なんだよ」
ナーシャは首を傾げる。
「そうなのかな」
そして急に聞く。
「ねえリオ」
「うん?」
「リオも孤児院で育ったんだよね」
「そうだね」
「お父さんとかお母さんの記憶ないの?」
僕は少し考える。
「ないよ」
それが普通だった。
でも――
少しだけ思い出す。
「母は」
「少しだけ覚えてる」
ナーシャの目が大きくなる。
「ほんと?」
僕はうなずく。
「聖人族だった」
「綺麗で」
「優しくて」
「温かい人だった」
ナーシャは静かに言う。
「それだけ覚えてるの」
「幸せなことだね」
僕は少し笑う。
「そうかもね」
その時、ナーシャが急に元気になる。
「あ!」
「ねえリオ!」
「今度さ!」
僕の腕を引く。
「リオの家に泊まりに行っていい!?」
「え?」
「剣術だけじゃなくて!」
「いっぱい遊びたい!」
指を折りながら言う。
「おままごととか!」
「おもちゃ作ったり!」
「ノアと遊んだり!」
ノアが羽を震わせる。
ナーシャは笑う。
「お兄ちゃんと妹みたいな感じで!」
僕は少し驚く。
でも――
嬉しかった。
僕は笑う。
「もちろんだよ」
ナーシャの顔が明るくなる。
「ほんと!?」
「いいの!?」
僕はうなずく。
「僕も毎日一人で寂しいからね」
ナーシャは満面の笑顔になる。
遠くでアルトが叫ぶ。
「おーい!」
「サボってんじゃねー!」
レオルも言う。
「練習終わってない」
ナーシャが振り向く。
「今行く!」
そして僕を見て小さく言う。
「ありがと」
その時
ノアがほんの少し光った。




