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庭に出ろ

SSSギルドだったと明かされた夜会は、熱を帯びたままざわめいていた。


歴史から消えた名。

SSS。

その真実を王国が認め、上位ギルドに通達した。

しかも口外禁止ではない。


その事実だけでも、十分すぎるほど重い。


だが、その空気の中でもラルラゴは変わらなかった。


騒ぎにも、視線にも、驚きにも引っ張られず、

ただ静かにSSギルド《ヴェルド・クレスト》の長、ガルス・レイヴンを見ていた。


やがて、低い声が落ちる。


「協力したいと言ったな」


広間のざわめきが、少しだけ静まる。


ガルスはすぐに答えた。


「言った」

「本気だ」


「なら」

ラルラゴは短く続けた。

「本気を見せろ」


その一言に、夜会の空気がぴたりと止まる。


リオが目を瞬く。


「……ん?」


ヴァルの口元がにやりと持ち上がる。

リュメリアは、静かに目を細めた。

ノアの光も、わずかに揺れる。


ガルスは数秒だけ沈黙したあと、低く問う。


「どういう意味だ」


ラルラゴは視線を逸らさない。


「口での協力は誰でも言える」

「見たいのは、お前たちの質だ」


ゼルクが、ごく小さく息を吐く。


騎士団の面々も、すぐに意味を理解した。


測るのだ。

この場で。

SSギルドの“二番手”の本気を。


ヴァルが愉快そうに肩を揺らす。


「いいな」

「夜会の余興にしては上等だ」


「余興じゃないわよ」

リュメリアが淡く返す。


ガルスの後ろに立っていた四人のうち、ひとりが一歩前に出た。


女だった。


鋭い目をしている。

長い髪は後ろで束ねられ、装備は軽量。

剣士とも魔術師ともつかない、実戦寄りの装いだ。


ガルスがその背へ視線を向ける。


「……セイラ」


女は小さく頷いた。


「問題ない」


その声音は静かだったが、芯がある。


ガルスは広間の中央へ向き直る。


「ヴェルド・クレスト副長、セイラ・ノクス」

「俺に次ぐ二番手だ」


ヴァルが口笛を吹く。


「おお、看板娘じゃないか」


「殴りますよ」

セイラが即座に返す。


「いい返事だ」

ヴァルは笑った。


ラルラゴはそのやりとりにも動じず、次に言った。


「リュメリア」


リュメリアは少しだけ肩をすくめた。


「やっぱり私なのね」


「適任だ」

ラルラゴは短く返す。


「ええ、知ってる」

リュメリアは静かに立ち上がる。

「あなた、そういう時だけ説明を省くのよね」


リオがそこでようやく追いついたらしく、リュメリアとラルラゴを見比べた。


「……待って」

「手合わせするの?」


ヴァルが楽しそうに頷く。


「そういうことだ」

「SSの本気を見せてもらう」


「リュメリアが?」

「うん」

「それ、だいぶ可哀想じゃない?」


その率直すぎる感想に、セイラの眉がぴくりと動いた。


ヴェルド・クレストの面々も一瞬だけ固まる。


だがリオは本気で言っていた。


セイラがリオを見た。

そこに嘲りはない。

本当にそう思っている顔だ。


「……随分な言い方ですね」

セイラが低く言う。


「いや、ごめん」

リオはすぐに謝る。

「でも、リュメリアってたぶん、見た目よりずっと嫌なタイプだから」


「褒めてないわね」

と、リュメリアが言う。


「だいぶ褒めてるつもりなんだけど」


ヴァルが笑いを噛み殺している。


ラルラゴが立ち上がる。


「庭へ出る」



小さな城の大きな庭は、夜会の喧騒から少し離れた場所にあった。


広い。

訓練にも使えるよう整えられた石畳の区画と、夜露を帯びた芝地が続いている。

周囲には灯りが配され、夜でも十分に視界が利いた。


夜会の参加者たちも、ぞろぞろと外へ出てくる。


王国の使い。

騎士団。

商人。

グレイランから来た者たち。

そしてレインとミアも。


レインは明らかに落ち着かない顔で庭の縁に立っていた。


「……まじでやるのか」


「はい」

ノアがやわらかく答える。

「やるようです」


「いや、そこは見たら分かるけど……」

レインは呻くように言う。


ミアは、その隣でじっと前を見ていた。

広がる夜気の中、いくつもの感情の揺れが重なっている。

ざわめき、期待、畏れ、昂り。

それらが、いつもよりずっと鮮明に聴こえていた。


庭の中央へ、セイラとリュメリアが進み出る。


セイラは腰の剣に手を添えた。

無駄がない。

立ち方も視線も、さすがにSSギルド副長といったところだった。


リュメリアは、いつものままだった。


涼しい顔。

力みのない立ち姿。

なのに、その場に立った瞬間だけ、空気の密度が少し変わる。


ゼルクが低く呟く。


「……始まる前から、場が違う」


サイラスも目を細めた。


「やはり」

「この方も、ただではないな」


ヴァルはもう完全に楽しんでいる。


「いいぞ、いいぞ」

「セイラ、遠慮するなよ」

「どうせ手加減しても意味はない」


「ええ」

リュメリアが静かに言う。

「そのあたりは、こちらも同意見よ」


セイラの目が鋭くなった。


挑発ではない。

事実として言われていると分かったからだ。


ラルラゴが二人の間を見て、短く告げる。


「条件は単純だ」


全員がその声に集中する。


「本気で来い」


「殺しはなし」

「止めが必要なら、こちらで止める」


ノアの光が一段だけ強くなった。

結界を張るつもりなのだろう。


ラルラゴは最後に、セイラだけを見る。


「見たいのは技ではない」

「覚悟だ」


その言葉に、セイラの表情がすっと変わる。


軽く息を吸う。


「……承知した」


リュメリアは少しだけ笑った。


「いい返事ね」


リオは庭の端で腕を組みながら、少し複雑そうな顔をしていた。


「リュメリアって、手合わせになるとどうなるんだろう」


ヴァルが横で笑う。


「綺麗に嫌なことをする」


「説明になってない」

「見れば分かる」


レインがその会話を聞いて、思わず呟いた。


「……怖いな、このギルド」


「今さら?」

と、ヴァルが返す。


ミアは黙ったままだった。


けれど、その瞳はセイラでもリュメリアでもなく、

二人の間に張りつめていく“音にならない気配”の方をじっと聴いているようだった。


庭に静寂が落ちる。


夜の灯りが揺れる。


セイラが剣を抜いた。


金属音が、細く鋭く響く。


次の瞬間。


リュメリアが、微笑んだ。


「さあ」

「見せてちょうだい」


その声音は穏やかだった。


なのに、庭の空気は一気に冷えた。


SSギルドの二番手と、SSSギルドの一角。

小さな城の大きな庭で、いま本気の手合わせが始まろうとしていた。

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