南の森(Eランク依頼の帰り)
その日も僕は、いつものEランク依頼を終えて帰る途中だった。
薬草の束を袋に入れて、森の道を歩いていると――
足元で何かが動いた。
「……ん?」
小さな影。
落ち葉の下で、何かがもぞもぞ動いている。
僕はしゃがみこんだ。
そこにいたのは
魔虫だった。
大きさは手のひらくらい。
薄い殻。
弱々しく震えている。
しかも――
体の半分が裂けていた。
「……怪我してるのか」
普通なら、放っておかれる魔物だ。
魔虫なんて、弱いし危険でもない。
でも、誰も助けたりはしない。
魔物だから。
僕はしばらく考えた。
「……困ったな」
魔虫はじっと僕を見ている。
逃げない。
むしろ――
助けを求めているようだった。
僕は苦笑する。
「僕は人助けだけじゃなくて
魔物まで助けるのか」
袋を置く。
怪我を見る。
かなりひどい。
普通なら、もう死ぬ。
僕は小さくため息をつく。
「……仕方ない」
腰のナイフを抜く。
自分の手のひらに、軽く刃を当てる。
血が流れる。
魔虫の口元に血を落とす。
「これで治るかわからないけど」
「少しは楽になるだろ」
魔虫は最初動かなかった。
でも――
血に触れた瞬間。
体が震える。
小さな体が
ゆっくり光り始めた。
傷が少しずつ閉じていく。
僕は驚く。
「……え?」
魔虫は、弱々しく僕の指に触れる。
そして
小さな声のような感覚が
頭の奥に響いた。
言葉ではない。
でも、意味はわかる。
ありがとう
僕は目を丸くする。
「……気のせいかな」
魔虫はゆっくり体を起こす。
まだ弱い。
でも、死ぬことはなさそうだ。
僕は笑う。
「元気になったら
森に帰れよ」
すると魔虫は
僕の肩に登った。
「……帰らないの?」
魔虫は動かない。
僕は頭をかく。
「まさか」
「ついてくる気?」
魔虫は静かに羽を震わせる。
その瞬間――
森の奥で、何かが反応した。
空気が震える。
まるで世界が
新しい契約を記録したみたいに。
この小さな魔虫が
後に何になるのか。
その時の僕は
まだ知らなかった。
未来で
この存在が
垓天使
と呼ばれることを。




