格の差を認める者達
先頭の男は、ようやく呼吸を整えた。
だが、整えたはずの顔はまだ引きつっている。
広間の空気に飲まれているのが、自分でも分かっているのだろう。
それでも、彼は一歩前に出た。
「……夜分の来訪、失礼する」
声は出ていた。
だが喉の奥に、わずかな強張りが残っている。
ヴァルがにやにやしながら椅子にもたれる。
「それで?」
「喧嘩なら帰れ。相談なら座れ」
その一言に、夜会の空気がぴりっと震えた。
SSギルドの四人は、一瞬だけ互いに視線を交わす。
そして先頭の男が、ゆっくりと言った。
「……相談だ」
広間のあちこちで息を呑む音がした。
貧民街から来ていた者たちは、目を見開く。
王国の使いも、騎士団の一部も、反応を隠せない。
SSの長が。
あの有名なパーティが。
“相談”と言った。
リオはそこでようやく、本当に驚いた顔をした。
「相談?」
「そうだ」
男は言う。
「成埜の地についてだ」
その瞬間、広間の空気が変わる。
ヴァルの笑みが少しだけ深くなり、
リュメリアの目が細まり、
ラルラゴは何も言わないまま視線だけを向けた。
男は続ける。
「昨日から、あの周辺で異常な魔気の流れを追っていた」
「今朝、我々の仲間が外縁に近づいた」
「二人が戻らず、一人は戻ったが、まともに言葉を話せる状態じゃない」
夜会のざわめきがすっと消える。
「魔獣ではない」
「魔人とも少し違う」
「そして、我々では……踏み込み切れなかった」
そこまで言って、男は唇を噛んだ。
屈辱なのだろう。
SSとして知られる自分たちが、限界を認めるのは。
だが、それでも来た。
それだけで、事態の重さは十分すぎるほど伝わった。
「王都で聞いた」
男はリオたちを見る。
「お前たちが、あそこから帰ってきたと」
「しかも、生きて」
ヴァルが小さく笑う。
「生きて、か」
「だから来た」
男は言った。
「教えてくれ」
「成埜の地で、何を見た」
その言葉で、ようやくこの四人が何をしに来たのか、広間の誰もが理解した。
喧嘩ではない。
見物でもない。
ましてや挑発でもない。
助けを求めに来たのだ。
SSの長自ら。
リオはしばらくその男を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「……座る?」
男は一瞬だけ目を見開く。
リオは続けた。
「立ったままだと、話しにくいでしょ」
そのあまりに自然な言い方に、男は一拍遅れて息を吐いた。
「……ああ」
ヴァルが杯を置きながら言う。
「よし」
「じゃあ、夜会の続きだな」
「ただし今夜は、少し面白い客が増えた」




