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お客様、ご注文はどちらにいたしますか?  作者: イチバ
第一政 レ・キャフェイ・カデ
6/10

第6杯 イリスの道

イリスは緊張しながらアレクサンドル3世橋で待っていました。

天気は晴れ、微風が少し。そして過ごしやすい気温。デートには最適な日でした。


「やぁイリス。時間通りだね」

「うん!」


彼氏(ボーイフレンド)には綺麗で大人びたイリスが写っていました。お洋服のおかげです。


「新しい洋服?似合ってるね」

「ありがとう!」


パァァッと溢れる笑顔が彼氏を襲います。


「それじゃ行こうか」

「うん!」


手を握り幸せそうにグラン・パレに入ります。


「見てみて。あの絵凄い綺麗だよ」

「どれどれ?」


2人の後ろに、こっそりエマが隠れています。デートや彼氏彼女関係になっていたのは知っていたものの、どんな人なのか、どんな感じなのか知りたかったエマは跡を追っていたのです。


「…イリスがあんなに輝いてる…眩しいくらい」


エマはさらに追跡します。

イリス達はグラン・パレを出るとカフェやお店でゆったりと過ごし、エマは邪魔してはいけないとレ・キャフェイ・カデに戻っていきました。



「…その、今日は楽しかった」

「僕もだよ。…イリス。実は一つ相談があるんだ」

「相談?」

「僕の親はある店を営業してるんだけど、稼げてなくて、経済的に苦しいんだ。お金を貸して欲しいってわけじゃないよ。ただ、おかしいとは思わないかい?」

「おかしい?」

「うん。頑張って一生懸命働いて、ほとんど無休なのに報われない。おまけに、僕にはまだ働くなって言って負担してくれてる。申し訳ないんだよ」


イリスは一目惚れしてしまったのもありますが、彼のこの優しさにも惚れてしまったのです。それが今、再燃し始めました。


「…確かに。みんな幸せな暮らしをするべきだよね」

「世界恐慌の影響もまだまだある。将来どうなるかわからない。だからさ、一緒にこの国を変えてみない?」

「…政治に参加するの?かなり難しそうだけど…」

「やってみなきゃわからないさ!フランスはこれまでにたくさん革命を起こしてきた。やれるかもしれないって歴史が言ってるんだよ。どう?」

「…うーん……ちょっと、考えとくね」

「わかった。ありがとう。それじゃあまた今度会おうね!」



レ・キャフェイ・カデに戻り自室に篭り考えこみます。


「…お父さんは、戦争で国のために、お母さんは娘の私のために…。貢献なんて、考えたことなかったな。…私は、このお店のためにやってきたのかな…?…今から、彼のためにしても、まだ間に合う…?」


彼の笑顔が頭によぎります。


「…まだ間に合う…よね」



[速報です。ドイツはドイツ・ポーランド不可侵条約を破棄したと発表しました。これによりポーランドへ領土要求を行っており…]

「参ったな。これじゃあまた戦争だぞ」

「どんどん悪化していくな…」


お客が不安がるのには理由がありました。

4月28日、ドイツはドイツ・ポーランド不可侵条約を破棄。これはいつでもドイツがポーランドに戦争を仕掛ける可能性があることになったのです。スペイン内戦で軍事力を拡大させた故、緊張状態が続くことになります。さらに、4月中にイタリアがアルバニアに侵攻。イギリスでは徴兵制を再開、ハンガリーは国際連盟を離脱といった、4月は第二次世界大戦前夜を終わらせようとした月となりました。

しかし、世界情勢の悪化は止まりません。

5月にはスペインが国際連盟を離脱。そして5月12日に満州にて日本とソ連が衝突、通称、ノモンハン事件が勃発。日ソの関係と日ソ国境紛争はより悪化することになります。


こうした背景に、イリスは政治に興味を持つようになります。


「…このままじゃ、また戦争が始まる…。そしたら、みんなとも…彼とも会えなくなる…」


イリスは本屋に寄って、政治関係の本を買い勉強し始めます。

必死に勉強し、気づけば7月になっていました。



「店長」

「どうしたんだいジャンヌ?」

「ここ2ヶ月ぐらいイリスが凄い勉強しててさ。最近遊ぶことすらしてなくて…。エマも心配してきてるんだよね」

「確かにそうだね。まぁ、勉強熱心なのはいいことだ。彼女がやりたいならそれでいいとは思うが、やりすぎはダメだね。それを教えてあげなさい。それに仕事に影響を出してしまってはみんなも困るだろう?」

「はい」

「ただし、イリスも困らせてはいけないよ。イリスがあんなに熱心なのだからね」

「はーい」

「ああ、後、今度の革命記念日に今年も軍事パレードを観に行こう。イリスとエマにも伝えてくれ」

「わかりました」


イリスの部屋の扉にノックをし、中に入ります。


「イリス?ちょっといい…か…」


イリスは寝ていました。手を組んで枕代わりに、下にはノートが置いてあります。


「…全く。風邪引いちゃうよ」


毛布をイリスに被せる時、ノートの内容が見えます。


「…何だこれ…めちゃくちゃ難しい内容…。ノートびっしりだし…。こんなに一生懸命勉強してるんだ。…今ブレーキかけたら可哀想か」


そのまま電気を消して静かにドアを閉めて、ジャンヌは自分の部屋に戻ります。


「…がんばれ。イリス」

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