第一政 最後の1杯 抵抗
既に店の玄関は崩れており、戦闘も膠着していました。
「…ジャンヌ。逃げよう」
「…え?でも外は危険だし、店長もまだ残ってるんだよ?」
「爆撃で近くの家が吹き飛んでる。ここにも落ちるかもしれない」
この時、パリのフランス軍は既に降伏済みでした。フランス政府は無防備都市宣言を発令し、戦闘はほとんどなかったのです。しかし、店長達は反撃をしていたのです。
「Nachladen!」(装填!)
「Hey! Was machst du?」(おい!何をしている?)
戦闘の騒ぎを聞きつけたドイツ将校達が急いでやってきました。
状況を把握した将校は攻撃を止めさせます。
「Feuer einstellen! Feuer einstellen!」(撃ち方やめ!撃ち方やめ!)
その掛け声でドイツ軍は発砲をやめ、撤退していきます。
同時に、店長達も攻撃をやめさせました。
<抵抗中の民間人に告ぐ!フランス政府は無防備都市宣言を発令した!我々ドイツ軍は国際条約を守るため、これ以上の攻撃は行わない!同時に直ちに抵抗を止め降伏せよ!>
「…店長。もう潮時だ」
戦友の1人がそう語ると、他の戦友も、B1bisの戦車兵達も武器を捨て降伏します。
「…そうか。ここまでか…」
店長も砲弾を置き、手を上げ降伏します。
1人の将校が歩いてきました。
「上官はいるか?」
「私だ」
フランス語で会話しながら、店長が代表として出ていきます。
「随分、古い兵器をお持ちのようだな」
「俺らは元兵士だ。あんぐらいある」
「ほう。君はその服的にあの店の関係者だな?中は見させてもらおう」
店内では、エマとジャンヌが小声で話し合っています。
「ジャンヌ。覚悟を決めよう。行かなきゃ行けないんだ」
「ぐすっ…だって…イリスもいなくて…店長まで失うなんてやだよ…。料理人さんも今日は来てない…これ以上私達だけいるなんてやだよぅ…」
泣きながらジャンヌはエマに話していました。
「ジャンヌ。店長はきっと私達に生きてほしいんだ。店を任せたいんだよ。このレ・キャフェイ・カデを。料理人さんが来てないのにも何か理由があるはず。だから一緒に行こう」
「やだぁっ…」
そのジャンヌの気持ちもエマは理解していました。これ以上、大切な人を失いたくない。その感情に押しつぶされそうでした。
「ジャンヌ!いい加減現実を見て!なんで店長が戦ってるかわかる!?フランスのためでも、死んだ戦友のためにも、私達のためにも戦ってるんだよ!今は生きなきゃ行けない刻なの!行くよ!」
ジャンヌの手を引っ張って無理矢理立ち上がらせ、裏口から出ていきます。
「とりあえず店内は見せてもらおうか」
「…」
店長は黙り込みます。
「何か見られたくない物でも?」
「…」
「何も言わないなら強行突破だ」
店長は黙っていると、将校がドイツ兵に合図を出した瞬間に将校を殴ります。
「Scheiße!」(クソ!)
「Ich bin dran」(お返しだよ)
「Verdammt, Franzmann!」(このフランス人め!)
将校が店長を蹴り上げ立たせます。口から血を出し歩兵を呼びました。
「あまりしたくはなかったのだが、仕方ないな。私にも優しさという感情はある。ここで死なせてやろう」
4人のドイツ兵が並びます。
「Stillgestanden!」(気をつけ!)
「Rechts - Um!」(右向け右!)
「Das Gewehr - bereit!」(構え銃!)
4丁のKar98kが店長を向けられ、銃身が光ります。
「何か言い残すことはあるか?」
「…Vive la France!」(フランスに栄光あれ!)
「Feuer!」(撃て!)
ズダダダダッと、壁に血がつき店長の体には4つの穴が空きました。壁に張り付くように倒れ、最期に店長の頭の中に浮かんだのは、イリス、ジャンヌ、エマの3人が仲良く暮らしている姿でした。
窓を割ったり裏口から店内に次々ドイツ兵が入ってきます。
「Los Los! Bewegung! Schnell!」(行け!行け!動け!急げ!)
レ・キャフェイ・カデはもぬけの殻でした。
6月22日。フランスは陥落。独仏休戦協定をコンピエーニュの森で調印しました。ここは第一次世界大戦の停戦協定を結んだ場所であり、まさに報復のような場所の選択でした。
ドイツ占領下になったフランスはヴィシー政権へ交代。ヴィシー・フランスと呼ばれ、ドイツの傀儡国家となりました。
フランスに派遣されていたイギリス軍はダイナモ作戦と呼ばれる救出作戦でイギリスへ撤退。第二次世界大戦の序盤は最悪の形でスタートを迎えたのです。
「おいで」
料理人さんが呼びエマとジャンヌを部屋に入れました。2人は思いっきりハグをして泣きつきます。
「よかった…無事だったんだ料理人さん…」
「ああ。店長からのお願いだったんだ。とりあえず中に入ろう」
鉤十字が描かれた旗が蹌踉めくフランスで、彼女達は一体どうなってしまうのでしょうか。
第二政へ続く…




