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お客様、ご注文はどちらにいたしますか?  作者: イチバ
第一政 レ・キャフェイ・カデ
1/10

第1杯 動き出す命運

「いらっしゃいませ!」


1938年フランス、パリ…


フランス首都パリのあるこのサロン・ド・テ(フランスでケーキやスイーツを紅茶と一緒に食べ楽しむ喫茶店)は休日でいつもより混んでいて忙しいそうに働いています。店名はレ・キャフェイ・カデ。


「すみません…只今30分待ちでして…」


[今日の天気は夕方から雨が降り、急激に気温は下がるでしょう]

テレビから天気予報が流れます。

このレ・キャフェイ・カデはパリの密かな人気店。エッフェル塔が見え景色も良い。旅行客にも人気で、スイーツも紅茶もコーヒーも、とても美味しいのです。


夕方にもなると、客はいなくなり、彼女達は掃除を始めます。


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「今日はやけに忙しい日でしたね…過去一お客さんが来た気がする」

「うん。でも、みんな喜んでもらえてくれるから嬉しい」

「みんなお疲れ。なんとかピークは乗り切ったね」


彼女らはこのサロン・ド・テの従業員です。

シャタンのショートで17歳のパリジェンヌ、ジャンヌ・ミレーユ。

ゴールドのロングで高身長の17歳、イリス・ジャッド。

ブルーのミディアムで小柄な18歳の先輩、エマ・クリステル。

この3人が主力であり看板娘なのです。


「ジャンヌ。アンリ・エドゥアール・フレールで買い物をしてきてくれるかい?買う物はこのメモに書いてある。私は急用ができてしまってね。頼むよ」


店長が現れました。

店長はこのレ・キャフェイ・カデの主人。20年前まで軍人でした。


「はいっ!」

「傘も持ってきなさい」

「はーい」


ジャンヌは裏口から出てお店に茶葉を買いに行きました。


「いらっしゃいジャンヌちゃん」


アンリ・エドゥアール・フレールの店長、ヴァーニャが出迎えました。


「ヴァーニャ店長。まだ物価下がらないの?」

「世界恐慌から9年経ってもこの有様。物価は高いままさ。すまねぇなぁ。あと、頼まれてた茶葉だ」

「ありがとう!」


その輝かしく純粋な瞳の彼女に、店長は尋ねました。


「…なぁジャンヌ。最近、治安がかなり悪化してる。泥棒に入られたか?」

「いいや?いつも通り平和だけど…まさか…」

「そのまさかだ。泥棒に入られちまってな。まぁ、人気店だから金を狙ったんだろう。レジ壊して中の金を思いっきり盗まれちまった」


1929年の世界恐慌の影響を受けたフランスは、経済的に苦しくなってしまい、ブロック経済を行いました。フランスを中心に行われたブロック経済はフラン=ブロックと呼ばれ、経済の安定化を目指しました。

そもそも、ブロック経済とは何でしょうか?

これは政府が金を通貨の価値基準にする仕組み、通称、金本位制を採用している国々で構成した経済圏のことなのです。これにより過剰な通貨発行、物価上昇などなどが抑制されるというもの。しかし、これは植民地との貿易が中心で、他国との貿易を制限するため経済停滞(経済の鈍化・失業率の増加・税収の減少)を引き起こしてしまい、恐慌を悪化させる結果を招いたのでした。一方、イギリスやアメリカは巨大な経済圏(イギリスは世界中にある大量の植民地を活かした経済圏、アメリカは南北アメリカ大陸と協力した経済圏)を形成、そして金本位制を廃止したため、ブロック経済を成功させたのです。

…ちなみに、ソ連は世界恐慌の影響を全く受けませんでした。


「そうだったんだ…私達も気をつけるよ」

「ああ。また来てくれ」


茶葉を買い、外に出ると雨がザーザーと降っていました。


レ・キャフェイ・カデに戻ると、皆が帰る支度をしていました。


「お疲れ様ジャンヌ。後は私がやっておくから、今日はもう休みなさい。忙しかったからね。疲れはいつのまにか溜まるものさ」

「ありがとうございます!」


彼女達には親がいません。レ・キャフェイ・カデの2階は普通の家になっていて、彼女らはここで暮らすのです。


部屋に入り、小さなリビングにはテレビと机、椅子が置いてありました。


「みんなおつかれ〜」

「エマちゃん大変だったでしょ?」

「あんなに人と話すのは初めてだったよ…」


イリスがラジオをつけます。


[本日はドイツ、ミュンヘンにて仏英独伊によるチェコスロバキア問題についての会談が行われました…]


ラジオからは"Heil!(万歳!)"という声が大量に聞こえてきます。


「ますますドイツがおかしくなってるわね…」


その狂気的な音声は、彼女達の心にまで伝わります。貧困が何を生んだのか。


「とりあえず、今日は寝よっか」

「そうだね。明日もあるし」


自分達の部屋に戻り、おやすみと伝えてベッドに転がります。


「明日、晴れるといーなー」


ジャンヌはそんなことを考えて電気を消し、目を閉じました。

しかし、この日が奇妙な彼女達の物語の幕開けだったとは、誰もが知り得なかったことでしょう。

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