ニコラス君成績UP作戦
「殿下、ドウェイン、何もそこまでしなくていいんだぞ?」
今日は7月最初の日曜日。だが、なぜか俺は屋敷の一室に押し込められている。
来週から期末試験なんだから、せめて今日くらいは気楽に過ごしたかったんだが・・・
「しかしまあ、勉強なんてこの歳になってやるもんじゃねえな。外で気晴らしでもしたいぜ。」
「だめだよニコラス君。いくら実技の成績がいいって言っても、座学だけならD組はおろか進級も危ないんだからね。」
「宰相殿にもよろしく頼まれてるし。」
「だいたい、殿下に頼むって失礼じゃねえか?」
「友人だからね。」
「有り難いのはそうなんだが、向いてないものにかける時間は人生における損失なんだよな。」
「いつものニコラス君らしくないなあ。」
「そこに道があるならどこまでもじゃ無かったっけ?」
「隣に舗装道路があるのに、何でわざわざあぜ道を走らないといけねえんだ?」
「結局そこを走る必要がありんだよ。」
「ドウェイン、今日はいやに哲学的じゃねえか。」
まあ、たまには勉強に付き合ってやるのもいいかな?
「さて、ああロミオ、何であなたはロミオなの?」
「知らねえよ。みんながそう呼ぶからじゃねえのか?」
「違うよ、作者を答えて欲しいんだよ。」
「近松門左衛門だな。」
「全然違うよ。外人でしょ、普通・・・」
「とても有名な人だよ。」
「ナントカスピアかも知れねえ。」
「しかし、本の作者なんて勉強して何になるんだよ。肝心なのは中身を理解していることだろ?」
「そりゃそうだけど、作者さえ知らない人にそう説かれても誰も納得してくれないでしょ。」
やっぱりドウェイン、今日は哲学的だな。
そんなこんなで、面白くも無い国語とやらを1時間もやらされ、次は数学。
「さて、直角二等辺三角形の他の辺の角度は?」
「大体200度から90を差し引いて・・・・」
「だいたいって何・・・」
「その位じゃねえのか?」
正確には180いくつだったと思うけど、図形によって微妙に異なるんじゃなかったっけ?
「180度だからね。覚えておいてよ。」
「固定なのか。」
「それ以外にはあり得ないレベルだよ。」
「制限速度みたいなもんだな。」
「馬鹿な事言ってないで。答えは?」
ドウェインがどんどん厳しくなる。何だか勉強してるっぽい雰囲気になって来たな・・・
「多分、おれの勘が正しければ45度だ。」
「正解。勘ではなく記憶しておくべきレベルだよ。」
「それじゃ応用が効かないじゃないか。」
「これは応用すら必要無いレベルだよ。」
「さすがは学者を目指してるだけのことはあるな。」
「はい、じゃあ、この図形の底辺が6cmだった場合の面積は?」
「もっとヒントをくれないと解けないぜ?」
「いや、高さは底辺の半分だとザックリ覚えておけばいいんだ。」
「なるほど、教師よりドウェインの方が教え方上手いな。」
「ちなみに、残る二辺の長さは6/√2だよ。」
「ルートは聞いた事あるな。」
「学校ではまだ習っていないから、追々でいいよ。」
いつもは使わない脳の筋肉を使ったから、ちょっと疲れてしまったぜ。
まあ、何とか4時間もの苦行を終え、今日のところは解法してくれたから、それで良しとしよう。
「それにしても、婚約解消の危機なんて尋常じゃないね。」
「そうなんだよ。馭者になって唯一困るのがそれだな。」
「馭者になることは納得してもらえたの?」
「そこはまだ俺が突っ張ってる。何せ、運命の相手なのは名前で分かってるからな。」
「名前?」
「俺の相棒に相応しい良い名前だと思うぞ。」
「まあ、そこは説得するとして、ラトリッジ家の後継者についてはどうなの?」
「甥っ子が継ぐ線で話は進んでる。そこは俺としてはどうでもいい。」
「でも、家を継ぐことが結婚の条件なんでしょう?」
「あいつ、見た目通り陰湿なんだ。お偉いさんならではのイチャモンをいろいろ付けてくる。」
「まあ、今は勉強と生徒会活動を真面目にやって、実績を積み上げていくしかないだろうね。」
「それでドウェインの弟子入りの件はどうなったんだ。」
「今日からだよ。まだ試用期間といったところだね。」
「俺は力技で何とかするが、お前の方が難関なんだからな。」
「僕はお偉いさんならではのイチャモンを突破口にしたいと思ってるよ。」
「闇討ちだったらいつでも手を貸してやるからな。」
殿下は婚約と王位継承、ドウェインは親の圧力、いろいろ大変だろうが、俺なりに協力させてもらうぜ。
そういや、殿下の側近って平民でも良いのか?