恒例の清掃活動
さて、今年もこの季節がやってきた。
生徒会主催の清掃活動である。
昨年はニコラス君が「はげ散らかしててみすぼらしい」という理由で建国の英雄、シェルダン将軍の銅像を捨てようと馬車で引き倒そうとして将軍の持っていた剣を折ってしまい、後で侯爵家が弁償する羽目になったが、今年は何とか騒ぎを起こさず無難に終えたい。
そして、今年は4年ぶりに全校生徒参加で清掃を行うことにした。
会長ほか、主力が2年目ということもあり、慣れているということもあるし、現行役員に対する生徒の支持の高さも関係している。やはり七不思議解決の功績は大きいようだ。
今年は昨年と同じく、王都の目抜き通りであるローガン通りと下水道の一部を政争することにしている。
ローガン通りは一般生徒が各クラス毎に区域を分けて清掃活動を行う。最も華やかで目立つ場所を大人数で活動することが重要との評議委員会の意見を受けてのことだ。
そして役員は下水道の政争を行う。
これは昨年、ひょんなことから下水道に入る機械があり、その汚さとホームレスの多さから対応が必要と思い至ったからである。
そんな訳で、私たちは早朝から地下道に入っている。
「今日も虫用ジャンボスライダーは健在だな。」
「何のことかしら。」
「しかし、キャロライン嬢が進んで来てくれるなんて意外だったよ。」
「私は殿下の行かれる所、常に在りですわ。」
「それにしても、どこから手を着けたら良いのか分からないほどの荒れようですね。」
「まずは中の人の排除からかな。」
「しかし、こうも入り組んでたら排除も何もあったおんじゃねえぜ。」
「そこで俺とキャロライン嬢の魔法の出番なんだぜ。」
「さすがに火が迫って来たらみんな逃げるな。」
「去年一回実演したからな。覚えてりゃみんなすぐに逃げるぜ。」
「じゃあ私たちは火が通った後の燃えかすを拾っていけばいいんだね。」
「それでも相当燃え残りが出てくると思うぜ。」
そう言うと前方にローランド殿下、後方にキャロライン嬢が立ち、それぞれ逆方向にファイヤーウォールを展開する。
そして生徒会役員も二手に分かれて彼らの後を歩き始める。
「しかし大したもんだね。どんどんゴミが焼けていく。」
「学内でローランド殿下に次ぐ火属性魔法の使い手ですもの。お任せあれですわよ。」
人が逃げ惑っているのか、いち早く異変を察知したネズミや害虫が我先に逃げ出している影響かは分からないが、遠くで悲鳴らしきものが聞こえる。
「正に順調そのものですわ。」
「でも、水分を多く含んだゴミはかなり燃え残るね。」
「時間が掛かっても良いのであれば、完全に燃やし尽くすことはできますわよ、殿下。」
「重くて廃棄時に苦労しない程度には燃やしてくれると有り難いね。」
「分かりましたわ。」
「ローランド殿下、ちょっと火力強すぎじゃねえか?」
「暑いか?」
「床も壁も熱せられてかなりな。」
「清掃するならこのくらい焼いた方がいいと思うがな。」
「そりゃそうだが。」
こちらは天才魔術師が担当している分、順調に進んでいる。
1時間ほどで外に繋がる門に至り、主要経路の作業を終了する。
「じゃあ、ここから引き返しながら残りの支線を片付けるか。」
「しかし、今回俺はほとんど何もしてねえな。」
「ゴミ回収よろしく。」
そうこうしつつ、2時間ほど掛けてミッチェルらのグループに合流する。
「今回も順調だったね。」
「まさに燃やし尽くした感があるな。」
「二人とも大したものだよ。」
「まあ、高貴な私たちの魔力を持ってすればこんな狭い通路なんてどうということはありませんわ。」
「まあ、作業量はローランド殿下の方がかなり多くこなしたがな。」
「まあ!何もしていないB組に言われてしまいましたわ。」
「何言ってんだ。変な物が燃えたときは俺の土魔法が火を噴くぜ。」
「おかしな言葉はよして下さる?それに、ミッチェル殿下の水魔法の方が有効ですわよ。」
「まあまあ、ここで喧嘩しないで。」
「それに私の魔術は決してローランド殿下に劣るものではありませんことよ。」
「じゃあ、こんなことはできるかな?」
そう言うとローランドは下水路に魔力を放出し始める。
すると、水がたちまち沸騰を始める。
「負けませんわよ。」
負けじとキャロライン嬢も魔力放出を始めるが、最早どっちの魔力で水が沸騰しているかなんて分からない。
「いやいや、何だか臭いよ・・・」
「おい、えらい蒸気が充満し始めてないか?」
「いいじゃないか。このまま全部蒸発させてやるよ。」
「ドウェイン、このままじゃちょっとマズいかも知れねえから、風魔法で蒸気と熱を外に押し出してくれ。」
「うん、分かったよ。」
彼の魔法により辺りの温度は下がってきたが、最早水路にほとんど水は無くなっている。
「まだまだですわよ。」
「いくら何でもそろそろヤベえな・・・」
その時、ボンッ!という爆発音が遠くで聞こえた。
「ヤベッ、何かに引火した。」
「いろんなガスが溜まってたんじゃない?」
「今まで爆発なんかしなかったぞ?」
「水中の管に繋がってる箇所にあったガスじゃ無いの?」
「何か壊しちまったかなあ。」
「逃げようぜ。」
「どうせバレるのに?」
「また生徒会で弁償させられちゃあ敵わないんじゃねえか?」
やり過ぎたのもあるが、何より危険なので退避することにしたが、幸いなことに延焼する物が無かったことと、爆風を風魔法が相殺してくれたお陰で、何とか無事に地上に出ることはできた。
ただし、水路は一部損壊してしまい、生徒会予算程度ではどうにもならなかったので、王家で弁償することになった。
「清掃すると何か壊すよね。」
「今回は俺じゃねえけどな。」
「でも先生に怒られずに済んで良かったね。」
「私は陛下に叱られたよ。まあ、叱られた程度で済んだのは事実だけど。」
「まあ、壊れるということは何もしなくてもいずれは壊れてたということだと思うぜ。」
「ローランド殿下は気楽でいいな。」
「あら、私もそう思いますわ。高貴な者の価値観ではないかしら。」
「お前も結構気楽だよな。」
「余裕があるのですわ。」
「そうだな。毎日その髪型をセットするくらいには時間が余っているんだろうな。」
「まあ、それが貴族の貴族たる所以とは言えるかも知れないね。」
「馭者はハゲてても支障ありませんわ。」
「男はみんな、いずれは禿げるものだぜ。貴賤を問わず。」
「あら、そう言えばお父様も最近・・・」
「まあ、薄い話はそのくらいにしておこう。」
「それで、一学期の主な活動課題はこれで完了したんだが。」
「では、夏休みの交流会の準備をいたしましょう。」
ということで、一学期も残すところ一ヶ月ちょっとだ。